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17 リンの事情

ボクたちゴブリン・ハーフは原初の大森林で平和に、ひっそりと暮らしていた。

半妖種は人種からも魔族からも良く思われていないらしい。だから人族も魔族も寄り付かない原初の大森林でしか暮らしていけないのだそうだ。


だけど、ボクはそれで構わないと思っている。

ニンゲンも魔族も怖かったからだ。

だけどある日、村の平和が突然脅かされることになった。一人の魔族がやって来て、こう言ったのだ。


「この半妖共め。

 貴様らのようなクズ共が我が王の支配地となる場所に居を構えるなど、身の程を知るがいい」


魔族がそう言うと、サーベルタイガーというモンスターが群れで村を襲ってきた。

サーベルタイガーは、私たちの集落から少し西の地域に棲む高レベルのモンスターで、かなり強い。人の言葉を理解する高い知能を持っているから、普通のモンスターとは違って<インテリジェンス・モンスター>と呼ばれる魔物の一種だ。

この<インテリジェンス・モンスター>は原初の大森林だけに棲む特別なモンスターの種類で、遭遇しても危害を加えなければ戦いにはならない。話し合いだってできる。

それなのに、どうして・・・?


普段は大型のモンスターを狩っているみたいで、私たちには見向きもしないので戦闘になることは無い。でも、戦闘になれば一匹だけでも村の戦士が数人がかりで戦わなければならないモンスターだった。

しかも村の戦士たちは狩りに出ていて、族長であるお父さんは少ない戦力で何とか応戦した。


けれど、戦いにすらならなかった。

まるで赤ちゃんが積み木を壊すようにして、村はメチャクチャにされた。

死者が出なかったのは奇跡だと思ったけど、大人たちはそれも魔族の思惑だと言っていた。

魔族は村が壊滅した様子を満足げに見ると、笑いながら言った。


「半妖共、すぐに森を出て行け。三日やろう。

 殺されないだけ私の寛容さに感謝するといい。

 ガーランド! 後は任せる」


「御意」


ガーランドと呼ばれたサーベルタイガーに、村の大人たちは目を丸くした。

他のサーベルタイガーより、頭二つ分は大きい。

サーベルタイガーは普通、少しだけ薄い茶色の毛並みを持つインテリジェンス・モンスターだ。

けれど、ガーランドの毛並みは黒。あれは―――たぶん<魔獣>になってる。

たぶん、あの魔族と<契約>したんだろう。


「半妖共、聞いての通りだ。ハッシュベルト様の寛容な心に感謝するがいい。

 そして一刻も早く、この森を出て行け。さもなくば、貴様らまとめて我が牙の餌食にしてくれよう。

 期限は三日だ。忘れるなよ」


そう言って、アイツらは去っていった。


戦士たちが戻ると、さっそく会議が始まった。気になった私は、会議の様子を盗み聞きした。


「敵の戦力は?」


「サーベルタイガーが約20匹。いずれもレベル60を越える個体ばかりだ」


「レベル60!?」


「しかもサーベルタイガーを率いているグループリーダーは<魔獣>になっていた」


「バカな。インテリジェンス・モンスターが魔族に下ったと言うのか?」


「分からん。だが、他のサーベルタイガーよりも厄介であることは確かだ


お父さんの答えに、会議に参加しているメンバーたちはゴクリと固唾を飲み込んだ。

お父さんはA級スキル<魔眼>を持っている。

<魔眼>は相手のステータスを少し盗み見れるレアスキルだ。

ボクたちゴブリン・ハーフで一番レベルの高いお父さんでも、レベルは41。

種族によってステータスには差がある。同じレベルだとしても、サーベルタイガーが相手ならボクたちは複数人で相手にする必要がある。

それなのに・・・


「村の戦力は?」


「先の襲撃で、狩りに出ず村の防衛に回った者たちは、私を除いて戦闘ができる状態ではない」


「兄貴こそ重症じゃないか!」


族長の弟、レブンおじさんが声を荒らげた。

お父さんはサーベルタイガーに襲われ、右足と右腕を怪我していた。特に右腕は剣を握ることも難しい。


「女、子供は逃がそう」


「しかし、男手が無ければ生きてはいけん!」


「ならば全員で逃げるか?」


「怪我人もいる。それに我ら半妖種が原初の大森林を出て、どこで暮らしていけると言うのだ」


「ならば戦うしかない!」


「女や子供はどうする? むざむざ、奴等に殺させるのか?」


「しかし・・・」


「ほかの集落から応援を頼むのは、どうだ?」


「そうすると、あのサーベルタイガーが他の集落も襲う可能性もある。それに日が少ない」


会議は堂々巡りだった。

戦えば全滅。逃げても行き場は無い。

村の雰囲気は重苦しく、怪我人を抱えていては身動きすら難しい。

ボクたちは詰んでいた。

でも族長であるお父さんは、みんなを逃がすために戦おうとするだろう。だからボクは魔仙草草を取りに行った。

せめて万全の状態で戦えるように。


ボクは村の状態をダイチお兄ちゃんに話した。

ダイチお兄ちゃんの名前は、ダイチらしい。始めに名前を聞いたとき、ネームを先に言わなかったから勘違いしたんだ。

ボクの言葉を黙って聞いていたダイチお兄ちゃんは、私の頭を撫でながら言ってくれた。


「村に案内してくれ」



H28.7.24

インテリジェンス・モンスターは原初の大森林にだけ生息するという一文を追加しました。

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