俺、剣を作る。
カン、カン、カン。
とある部屋に金属同士がぶつかり合う音が響いていた。その部屋には火花が散っていた。
そう。俺は今、武器を作っていた。
以前の魔人化により、ソウエンがボロくなったのだ。
元々、魔人化というものがあること自体しらなかったのだから、
それをする前提で剣を打ってたわけじゃないので、ボロくなるのもうなずける。
神器クラスの剣ではあるが、元はゴブリンの剣が成長しただけ。
金属の質は良い方だが、急激な変化に耐えられるはずがないのだ。
さて、問題の剣だが。
全く別の素材をベースにソウエンを合わせる感じで作ることにした。
金属ではなく、特殊な木材で打つことに決めた。
特殊な木材はとある商人から譲り受けた。ていうか押し付けられた。
木剣が弱いというイメージは俺には無い。
むしろ金属より強いイメージがある。
地下迷宮時代、あるモンスターにこういうスキルがあった。
その名も“金属武器無効”。文字通り、金属武器の攻撃が無効化されるスキルだ。
その際に魔法で戦っていた俺だが…、この世界には異質な木材が存在したと聞いた。イフに。
なんでも金属と同じように炉に入れて武器として打つことができるらしい。
その木材は絶滅したらしいが、ある商人が持っていた。
今、俺が使っているので最後の異質木材となるらしい。
異質木材を使っている武器もこれ一本しかなくなる。
非常に珍しい武器となるようだ。作る側としちゃ嬉しいことだ。
何故木剣にしたのか…それは以前の魔人化が原因だ。
俺は魔人化すると黒くなるが、それは正しくないらしい。
モンスターが使ってた武器なので、俺は魔人化というよりモンスター化してしまうようだ。
魔人化は契約主と精霊が一つになるのはもちろん。
人によっては武器とも一体化するらしい。主に俺。
あの黒いのがモンスター化なら、俺はなんなんだって話だ。
正しい魔人化をするため、精霊の力を宿しやすい木剣にしたのだ。
折れやすいのかと思ったが、ソウエンを混ぜると性能も属性も引き継げるらしい。
融合成長というのもある。今回は思い切って踏み切った。
性能を引き継ぐ。すなわち耐久力も引き継げるということだからな。
作り方だが、かなりムズい。
まず、異質木材の周りを削ってツルツルにする。そして炉にいれる。
木材はデカイが、炉はその二倍のサイズなので問題ない。
不思議なのが木材が灰にならずに金属のように溶けてしまうことだが。
いったん炉から出して、ハンマーで叩いて伸ばす。
そして冷めたら炉に入れ、熱して、出して、叩く。
これを繰り返し、1cmの厚さの長方形にする。
長く、厚く、重い板となった異質木材。
そしたら炉を入れ替える。さっきのより少し大きい炉だ。
まず板を放り込む。すると炉の炎が強くなり、板が白く光る。
魔力だ。自然の魔力。人が触れることのない、未知の領域。
素材は人を選ぶ。選ばれた者だけが見れるというのがこの白い光らしい。
この光が出たら、俺が素材に選ばれた証拠。
俺は何故か、その期待に応えようという衝動に駆られるのだ。
俺は炉にソウエンを入れる。今まで世話になり、これからも共に行く相棒。
新しい姿になってもよろしくなと言って、俺は炉についてる扉を閉じた。
この炉は素材と武器を合成する炉だ。
修行中に俺が作った。修行中に何してんだと先輩に怒られた記憶がある。
そんときは先輩を返り討ちにしたが。落ち込む先輩を励ましたのは俺のホットケーキだった。
話が逸れたが、この炉に1時間程、素材や武器を入れて熱する。
すると冷めない板になる。これをハンマーで叩いて、作りたい武器の形にする。
そして冷却庫に入れて、固めて、魔力炉に入れて俺の魔力を籠める。銘や、適合力を付けて完成だ。
適合力は、一応新武器なので、ソウエンより落ちている。そこで魔力を籠める。
すると、俺専用の武器として、初期性能の上昇やこれからの成長可能性が増える。
一時間たったので、炉から出す。漆黒の板が出てきた。ソウエンの魔力も感じる。
まずはハンマーで叩いて、剣の形にする。
厚いので、更に叩いて薄くして、剣として使えるようにする。
刃だけでなく、柄も整えて、グリップにテープを巻く。これは滑り止め。
やすりをかけて、形を完全にして、使い心地を確認。
うん、ちょうどいい。
これを冷却庫に入れる。冷めない板はこれで冷ますことができる。自作冷却庫だ。
1時間したら取り出し、魔力炉に入れる。
一応炉だが、熱するわけじゃない。
俺の手ごと入れて籠めるので、魔力が漏れないようにするのだ。
銘は何にするか…。
オロチ、違う。ハヤテ、違う。鬼山さん、誰だよ。
うーん。迷う。ソウエンもかなり悩んで付けたんだよな。
ホムラ、ソウエン…あ、そうだ。ビャクエン!
そうしよう。俺の中のあいつが白い炎を使うしな。うん、決めた。
ということで、剣の銘や性能が確定した。
“ビャクエン”(バスタードソード) 属性“神炎、神風、閃光、重力、生命”
・全長140cm(刀身120cm、柄20cm) 重さ5t 耐久∞
・クラス
神器“古の時代レベル”
・スキル
斬れ味上昇、四種の炎、重量感無効、如意、気力剣サポート、幻影剣、耐久無限、
五属性統合、継承、呪い、血の覚醒、一体化、防御無効、吸熱、遠距離発火、溶解
・武器オリジナルスキル“精霊武器化”
こうなった。長いので、鞘に納めると、地面にぶつかる。だからこの“如意”は便利だ。
坊主のお供のサルの武器だった棒と同じの、長さ自在というわけだ。
普段はソウエンくらいにしておこう。そうすればぶつからないから。
ビャクエンは全体が銀色。刀身に紋章が刻まれている。グリップは黒。
元が木材とは到底思えない。完全に金属の剣だろう。
中々の仕上がりだと思う。今までの剣で最高性能だ。
それよか、いにしえ?レベルって何だ。
神器にもレベルがあんのか。また面倒くせえのが増えたな。
あの商人も言ってたな。古の時代。帰るのに関係あんのかね。
訳分かんねえスキルあるけど、これからはこいつが相棒だ。
銀龍からもらった武器も成長させないと。それから生活費稼いで…。
迷宮攻略に、神の眠る場所に、鳥居もみつけないと。
やることが多い!くそったれ!
こうなったら全部こなしてやる!見てろアテナ!チクショー!
俺は心の底で叫び、そう決意した。
新たな相棒である剣を握りしめて…。
―――(おまけ・異質木材を押し付けた商人)
俺は武器の素材と、飯の買い出しに出ていた。
その途中で、その店をみつけた。
俺は興味が出たのでその扉を開けた。
中にあったのは、比較的広く、綺麗な店だった。
入って隣にカウンターがあった。
そこに居た男はやせていて、頭にターバンを巻き、盗賊のような感じだった。
ターバンからは、入りきらなかったエメラルドグリーンの髪が、
ぴょこっとはみ出ている。額には斜めに大きな傷があった。
「いらっしゃい。兄ちゃんよくここをみつけたね」
「はあ。どうも。ここは一体…?」
「ちょっと珍しいのも扱ってる商店さ。元盗賊が営んでる…ね。俺はいちおう店主だ」
店主の男は低い声で言って、不敵に笑った。
俺はその笑みから悟って、男に尋ねた。
「あんた、強いな。この街の誰よりも…ステル以上に」
「ほう…。あの若じいさんと戦ったのか?」
「いや?ただちょっとね…この前とんでもなく強いって気づいた」
俺はグローリーを倒して以来、敵の強さが分かるようになった。
その際、ステルが異常な強さを持ってることが分かったのだ。
「あのじいさんは戦闘向きな奴じゃねえ。ウィザードとしては優秀だがな」
「…」
「まあ、いいさ。お前さん、荷物を見る限り…武器の素材を探してんな?」
この男、何者なんだ。元盗賊とか言ってるが…洞察力が尋常じゃねえ。
「だったらこいつを持っていけ…。貴重な素材だ。大切にしろよ…」
「貴重な素材?何故俺に?」
「兄ちゃんが気にいった。ただそれだけさ」
店主が出したのは大きな丸太。黒っぽいのが印象強い。
「木材?」
「そいつは金属と同じように武器が作れる…。それがこの世に存在する、
最強の最後の木材だ。昔はたくさんあったが…、今は魔力変動が起きたからな…
古の時代より魔法が発達したわけじゃないからな…。不便なもんだぜ」
店主は寂しそうな感じだった。が、それを俺は疑問に感じた。
「料金はいらねえ。早く帰らねえと日が暮れるぞ」
「あ、ああ…」
「その代わり、完成品を見せてくれ。それで充分だ」
店主が言うように、俺は店を出た。
幾つか疑問はあったが、俺は急いで家に走ったのだった。
―――(おまけ2・元盗賊商)
おもしれえガキだな、アイツ。
それにしてもステルの奴、まだ鈍ってないのか。ハハ。やっぱ侮れねえな。
驚いたな…あのガキ、イフリートと契約してら。
それにフェンリルも…。クク、これからもっと強くなんのか。
さすがは王の息子だ。これも腐れ縁ってやつだな。
早く覚醒しろ…。俺をもう一回熱くさせてくれ…。
クク。楽しみが増えたな…。
この商人は誰なのか…。
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