俺、グローリーと戦う(後編)
「ま…魔人化…!?」
『成功ですね。ロード』
「ああ。グローリーも面喰らってんな」
俺は魔人化を実行した。
精霊を体内に取り込み融合する。精霊の能力と容姿を模ったような姿。
それが魔人化だ。
俺は上半身裸。両腕肘から下が肉体変化を起こして、黒いガンドレッドのようになっている。
下半身全体も同じような質感で、膝から下は何やら灰色の毛が生えている。モフモフだ。
そして、背中から紫の炎で八つ首の竜頭が作られた。
髪は少し伸びただろうか。左半分が白くなってる。
両目も瞳が金色になった。左は黄色だったので大差ない。
と、全て把握したように言っているがミラーを見ただけです。はい。
魔人化したのは良いが、額に目があります。正確には目の模様。
そして俺の剣。ソウエンがメッチャすごい。
結構細めな俺の剣は、両手剣並にでかくなった。
長さ170cm、太さ60cm、重さ40t。
長い太い重い。とにかくデカイ。俺の身長に近い。
重さはそこまで感じない。でも40t超えてらっしゃる。
片手で振り回せますね。魔人化してるからあまり負担じゃないらしい。
色は柄全体が黒。刀身が暗い紫っぽい。シンプル配色っすね。
「な、何故だ!?何故お前に魔人化ができる!?」
「ん?いやーなんかできた。さっきやり方教わったらさ」
「馬鹿な…魔人化は僕が5年かけてようやくできたのに…!」
そんなにかかったのか。まあ、頑張ったんだな。
グローリー、叫んでもできちゃったんだから仕方ないさ。
『ロード。魔人化は魔力だけでなく、体力も使います。
限界そうなら私が止めますからね』
「あいよ。てかこれマジで飛べるのか。超便利」
俺はクルクルフワフワと飛ぶ。重力操作が簡単だ。
「さてと…。ほんじゃ予告通り、お前に味あわせてやんよ」
「ッ!?何を!?」
俺は剣を両手で構え、魔力を集中する。
すると剣から明るい紫の光が出てきて、50cmほど刀身を延長し、光りの刃を形成した。
剣を一気に振り上げた。すると背中の八つ首の竜頭が剣に噛み付いた。
剣が更に強く光り、辺りを強く紫で照らす。
そして俺は剣を振り下ろした。
グローリは障壁を作って防ごうとした。が、
「ぐっ…!障壁が溶けてる?…そんな馬鹿な!」
そう、この紫の剣、実はとんでもない熱量で、魔力障壁すら溶かすのだ。
この武器の特性はイフの精霊能力の一つだ。
“あらゆる存在を蒸発させる熱量”。
これは半径10km以内の物を溶かし蒸発させる能力だ。
実体化していれば普通に溶かせる。それが魔力障壁でも。
発動しなきゃ溶けない。ていうか溶かせない。
じゃないと魔人化してる俺には近づけないし。
「ぐぬぬ…。ガ、ガァァァァァァァッ!!!」
グローリーの障壁はあっけなく溶けて斬れてしまった。
真っ二つとなった障壁はそのまま消えて、剣がグローリーに直撃した。
叫び声をあげてグローリーが吹き飛び、壁に激突した。
まあ魔人化してると斬れないみたいだし。
人が斬れない状態にイフが押さえてるみたいだし。
斬ることが目的の攻撃じゃないし。たぶんそろそろ始まるかな。
「ぐ…貴様…!」
「おいおい。立っていいのか?痛みで死ぬぞ」
「なに…!?ギャァァァァァァァッッッ!!!」
グローリーは立ちあがって叫び声を上げて倒れて地面を転がった。
魔人化も解けてしまった。
「なんだこの痛み!?怪我をしたわけじゃないのに…ガァァァァァ…ッ!」
「おお、痛いか?ははは。ザマァ」
俺って嫌な奴だな。人が苦しんでるのに笑うとか。
「それは人の痛みを記憶して溜め込み対象者になすりつける技さ。
持ってる間はめちゃくちゃ痛いんだよこれ」
つまり、痛みを身体に溜め込むので痛覚が働くのだ。
俺は一昨日からこれをやっているので、実を言うと、
グローリーの感じる痛みを試合前からずっと感じていた。
俺は手足を何度も消し飛ばされてるので慣れていたが、この感触を感じた奴は滅多にいない。
何千何百人。罪のない者達を傷付けて奪ったあいつにはちょうどいい。
「ガァァァァァァッ!!クソ…ッ!この程度ォォォォッ!」
「おいやめろ。正直画が酷い」
白い学ランも髪もヤバいな。荒れてるよクソイケメン。
「僕は…間違っていない…!冒険者は…僕が…潰す…!」
「だったらそれはテメエ一人でやれよ。白海を巻き込むな」
「君は…アマノの何だって言うんだ!?恋人か!?」
「昔はそうならいいなとは少し思ったが…今は興味ない」
「だったら!」
「でもな。お前は本人に理由も話さなかったんだろ?白海から自由を奪ったんだろ?
だから侵略って言ったんだよ。テメエの勝手な考えに白海を巻き込んだんだからな」
まあ、すごい執念だよな。あの痛みに耐えて会話してるし。
ん?どれくらいの痛みかって?
えーっと。唐辛子を身体に塗って犬に全身噛まれて塩振られた後、
トラックに連続で五回弾かれてボクサーに挟み打ちで合計百回殴られた後、
鉄球で吹っ飛ばされて、高級マンション四つ分の体積の物体に潰されそうなくらいの痛みかな。
想像したくない?初めから聞かないでくれよ。
「まあ、痛みは消しといてやるから。とっとと眠ってくれよ」
「え?」
「それから。別に冒険者をお前がどう思うが結構だが、
お前の父は騎士でありながら冒険者に力を借りたのは…冒険者を信じたからだろ?」
そして、最後に言った。
「だったらもう一回信じてみろよ。過去って狭い部屋じゃ外は見られないぜ。
あの事件から10年以上は経ってる。きっとお前の知る世界は変わってるよ」
グローリーが何かを言おうとする前に俺は魔人化を解き、
グローリーを左ストレートで殴り飛ばした。
グローリーは気絶して試合は終わった。
ちなみに先輩は白海に圧勝した模様。
なにやら言い争っていたらしい。好きな人のこととか言ってたが…。
――――――(翌日)
「いろんなとこで噂になってるよ。ホワイトローズ完敗って」
「ふーん。まあ別に良いんじゃね。ギルドからお祝いみたいなのもらったし」
「あの後、ホワイトローズは解散。いろんなとこに謝ってるらしい。
ワシのとこにも来たぞ。お菓子をもらったな」
「僕にも来たよ。四天王がギルド職員として無償で働くってさ」
「まさかホントに無償で働かせんの?」
「まさか。1週間はそのつもり。働き次第で銅貨三枚はやるさ」
「生活費にしちゃ少ないな」
「それくらい面倒かけたしね」
翌日、俺は朝飯を食っていた。
この場にいるのは俺、先輩、ステル、受付嬢、ノブナガ、イフ、近藤、氷咲。
そして何故か…グローリーと白海。
「おい、何故お前らがいる。そして何故呑気に飯食ってる」
「ワシが連れてきた。グローリーにはこの家で働いてもらう」
「そういうことさ。まあ、これからよろしく。味噌汁おかわり」
「おかわり要求すんな。まあやるけど。で?白海は?」
「この家に住ませる。冒険者としてな」
「いいのかよ?」
「三人じゃ広い。大人数で住むために買った奴だし」
味噌汁を盛って、グローリーに渡す。何か普通に馴染んでらっしゃる。
「でだ。パーティってのは6人までクエスト参加できる。
チームは人数上限なしだ。そこで…」
「ここにいる冒険者でパーティを組んでもらう」
「「はい?」」
ノブナガとステルの言葉に思わず声出す俺と先輩。
一体どういうことだ…。
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