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タカスガタイキ即興小説まとめ/雑多ジャンル

夜道の向こうで待っている。

 夜道で誰かが待っているよ。

 誰かがずっと待っているよ。

 だから、夜道にはいかないことだ。

 近くの街灯がともったら、後は真っ直ぐ家に帰って、うろうろと朝まで人間の世界でうずくまっていることだ――。


 おじいちゃんは、私を怖がらせることが好きだった。

 もちろん、躾としての意味が大きかったのだろう。けれど、躾の手段として子どもを怖がらせるのが好きだった。私を怖がらせるのが好きだった。やれ悪い子は、幼稚園から山の国に売られるだの、道草をする子は膝に水ぶくれができて、そこから腐って死んでしまうだの。いちいちユニークな脅し文句を考えては、私を泣かせていた。ひょっとしたら、専用のノートさえ用意していたかもしれない。おじいちゃんの孫怖がらせ創作ノートだ。電子書籍化したら、意外に売れるかも。最近、そういうの多いから。ほら、親とか親戚とかがやっていることをツイッターで書いたら、すごいRT稼げちゃいましたみたいなことが時々あるでしょ? 意外に身内の人の趣味って馬鹿にできないものだ。実際、私のおじいちゃんのあの膨大な怖がらせレパートリーは驚嘆にあたいする。時々、本当に創作なのかなって思うくらいに……。

 思えば、幼い頃にとって、おじいちゃんは私の『恐怖』を具現化した存在だったかもしれない。

 や、すごくやさしいおじいちゃんだったんだけれど。

 だから、よりいっそう叱りつける時の声の抑揚が、耳に残っている。


 そのおじいちゃんが死んで、もう数年。

 私は大学生になって、一人暮らしを始めて、料理をおぼえて、料理に手を抜くことを覚えて、夜更かしをおぼえた。あと、酒とちょっとだけ煙草も。

 一人暮らしの夜にやること? それは一人でできることです。具体的には、私の場合、チャットかツイッターが多い。どちらかというと、それはネットサーフィンの延長というより、会えない遠方の友達との距離を埋めるための手段だった。少なくとも、私にとっては。たまに友達がわけのわからない言葉を呟きだしてわけがわからなくこともあるけれど。私だって、ほら、知ってます、wwwって草を生やすって意味なんでしょう? それの何が面白いかは知らないけれど。


 ……。

 どうしたんだろう、なんで急におじいちゃんのことを思い出したのか。友達の家の犬が死んだという話がツイートで流れてきて、それで連想したんだろうか。犬から連想されるなんて。その友達のワンちゃんには悪いけれど、ちょっとおじいちゃんに対して申し訳なく思う。


『会いたいよ。目を開けて。どんな手段でもいい。もう一度会えるなら』


 ツイートが流れてくる。さっきから多いな。この子、本当に悲しんでるのかな。私の経験上ね、こういうことだらだらいう子って、多かれ少なかれかわいそうな自分をアピールしたがっていて、翌日にはけろっとしているタイプが多いんだ。いや、どちらかというと、アピールすることで悲しさを消しているのかな。悲しいのは本当だ。悲しくないわけがない。人は生きて死んで、動物は生きて死ぬのだ。


 でも。


『本当に?』


 私はリプライを返す。

 私は嫌だな。死んだものにもう一度会うだなんて。だって、その話をしてくれた時のおじいちゃんの怖い顔。忘れられない。きっと、今あの夜道の向こうに待っているのは、おじいちゃんだ。私をずっと待っている。言いつけを守らなかった私に「ほうらね」と笑いかける、暗く暗く長い手。


 本当に?

 会いたいの?


 だったらね。

 行ってごらんよ。

 夜道を行ってごらんよ。

 そこに誰かが待っているから。

 あなたが待っているだろうと思う人が。

 きっと暗い夜道の向こうで待っているから――。

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