悲しみの果てには 1
「そーねェ、やっぱり中学生で、男子で、健康で、身長が高くて、力があって、でも冷静で命令に忠実なやつねェ。」
薄暗い車の中で背の高いすらりとした女性が独り言のようにつぶやいた。
「でもぉ、所長からの特命ですよぉ。めったにこんないいチャンスなんてありませんよぉ。」
その女性の隣に座っている小ぶりでまるで少女のような体型の女性がそれに答えた。
ピーという電子音が車の中に響いた。その音を合図のように運転席で運転していた執事のような男が言った。
「着きました。エルサルドノ地区です。」
背の高い女性はそれを聞いて座りなおした。
「了解ィ、それじゃあここら辺で停めてくれるゥ?」
しかし窓から外を見てもとても人が住めるような環境ではない朽ちた集合住宅が立ち並んでいるだけだった。
「ここ・・・ですか? こんな所にいるのはごみ溜めで暮らしているヤロウしかいませんよ?」
だが背の高い女性は別にかまわないという顔をして見せた。
「・・・わかりました。」
男はためらいつつも車を停めた。
二人の女は車から降り、足早に行ってしまった。男は二人を止めるかのように
「では、せめて護衛を!」
と言ったが、背の高い女性はそれを振り払うような手振りをして行ってしまった。
「エリサ様っ!?」
男は叫んだがその声は届かなかった。
「エリサ様ぁ、開発主任からのプレゼントだそうですぅ。」
小ぶりの女は肩から下げていたバックから紫色の箱を取り出し、エリサと呼ばれた背の高い女性に手渡した。
「しっかしィ、ほんとに色のセンスないわねェ。」
顔をしかめつつエリサはプレゼントを受け取った。
「主任ですかぁ?」
相変わらず小ぶりの女性は甘えるような声で誠実に返事を返す。
「まあいいわァ、で?これなんなのォ?コロナァ?」
コロナと呼ばれた小ぶりの女性はバックから紙を取り出し
「え~と、それはですねぇ、所長からの特命である『生物兵器』の候補者として適した人ほど赤に表示されるらしいですぅ~。」
コロナの説明を聞きながらエリサは紫の箱を開けた。箱の中にはメモ帳くらいの大きさの無線機にモニターがついたようなものが入っていた。
「へぇー、これがねェ。」
エリサはつまらなさそうな顔をした。ただ、今回の特命のような場合にはとても有効なためいやいやながら使わせてもらうことにした。
電源ボタンのようなスイッチを押すとブッという音とともにモニターが映し出された。モニターの中には淡い赤がいくつか表示された。
「あ、そうだ赤は赤でも濃ければ濃いほど適しているそうですぅ。」
コロナがいかにも今思い出したというように言った。
「で?範囲はどのくらいなのォ?」
「はい、有効範囲は500mらしいですぅ。」
エリサはめんどくさそうな顔をしたがコロナは続けた。
「なんでも『急増品』らしいですぅ。」
「あの女、わざと手柄をたてさせないようにあえて小さくしたわねェ!」
「ま、まあ一緒に探しましょうよぉ」
エリサは落ち着きを取り戻しコロナとともに朽ちたビルの集う街を歩き始めた。