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落下少女の懊悩  作者: 蒼のつばさ
1/17

空から落ちてきたものは…

人は悩み続ける生き物だ

空から美少女が目の前に降りてきて、やがてはラブラブな人生になるといる漫画やアニメの主人公を、俺は羨ましく思っていた。

現実でもそんなことが起きればいいのにと度々思う時もある。

が、それは科学的、物理的に無理な話なのでその望みは諦めてしまった。

そんなことを学校の帰り道、そう思っていた。いや、口に出していた。一緒に帰っていた隼人(ハヤト)に話していた。

「アニメの見過ぎだ」

ごもっともです。ご意見ありがとうございます。

「でも、お前もそう思うだろ?」

「まあ、そうだが…」

「ほ〜れ」

俺が隼人の脇を肘で突つく。

そして、2人同時にため息を吐いた。

「モテたい…」

隼人がそう呟いた。

「その言葉をいうのはやめろ。てか、言ったら負けだ」

「ああ…」

2人トボトボ歩く。

眩しい夕日が2人を照らし、人影は俺らの身長を余裕に越していた。

電線に留まっていたカラス全てが一斉に解散するように俺たちから逃げるように飛んで行った。

「…(カラスに)嫌われてるのか?」

「考えすぎだ」

そんな時だった。

飛んで行ったカラスを見ていた俺の視線の先にカラスではないものがあった。

形がカラスではないことから、カラスではない。(当たり前か)

それに、落下してるし。

夕日が落下しているものと重なり、よく見えない。あれは何だ?

ジタバタしている様子。

おや?手と足、体に頭もあるし、服も着ている。人間か?

「人間だ」

俺はそう決めつけた。

理由は人間ぽい体しているから。以上。

「え?」

隼人は俺の言葉が聞こえなかったので聞き返した。が、もう遅かった。

俺は急いで落下地点へと向かった。

全力で走れば間に合う。

下はコンクリートだから、落ちたら大変なことに…想像したくない。

…よし、予想落下地点に着いた。

落下物は(さっき人だと決めつけていたのに物扱いとは…)少しフラつきながらも落下している。

そのため、もしかしたら予想落下地点よりもずれる可能性がある。

ビル10階ほどの高さまで降りてきたので、キャッチする準備をする。

顔を上の方に向けているため、顔が見えない。

落下物の軌道が俺の後ろへとズレる。

俺も合わせて後ろに下がる。

が、落下物の金色の長い髪に見とれ、足を(つまづ)かせてしまい尻餅を着いてしまった。

「イテ」

そして、落下物は俺のお腹目掛けて落ちてきた。勢いよく。

「グヘェッッ!!」

こ、これは鳩尾(みぞおち)に入った…

「いてててて」

落下物がそう呟く。

俺の方が痛いっつーの。

落下物は俺の方に顔を向けた。

俺と落下物の目が合う。

「!」

このとき、初めて落下物が人間だと確定した。

そして、俺は驚いた。

金髪の美少女…!

隼人が走って俺のところへと追いついた。

そして、(俺を見た)美少女と、(美少女を見た)隼人がこう言った。

「「だれ!?」」


今回の件について

空から美少女は降ってこないという俺の考えかつ、現実的考えが壊された。

そして、空から降りてきたこの美少女、今からこいつを落下少女と呼ぼう。


「落下少女、俺の名前は亮介(リョウスケ)という名があるんだ」

「苗字は?」

荒井(アライ)

「アライ、リョースケ…」

落下少女はそう呟いた。

「そっちは?」

「アラスチル・シャロワ」

「そうか落下少女」

「…落下少女とは、もしかして私のことですか?」

「ああそうだ」

「私にはアラスチル・シャロワという名があります!」

「そうか落下少女」

「シャロワ!」

落下少女(シャロワ)は頬を膨らませ、だんだん泣き目になってきた。

「…しゃろわ」

「そうです」

自分の名前をやっと言われてホッとしたのか万遍の笑みを浮かべた。

「ではシャロワさん」

「なんでしょう?」

「俺の上から降りてくれないでしょうか?」

落下少女が俺の上に座っているため、身動きが取れなかった。

「…すみません」




「落下少女に色々聞きたいことがあるんだけど…」

「はい、何でも聞いて良いですよ」

落下少女と呼んだところはツッコまないんだな。

俺はその言葉を無視して周りを見渡す。

今の時間帯、ここら辺はあまり人気がないものの、落下少女の服装が目立つ。

白く、地面に付くほど長いドレスを身に(まと)い、首にはネックレス、頭には小さな冠を付けていた。

「隼人、今から時間あるか?」

隼人が日の沈み具合から今の時間を推測する。

「ああ、あるぞ」

そう答えた。

「よし、じゃあ落下少女、今から俺の家に案内してやる」

俺は腰に手を当ててそう言った。

「…盗賊に捕まった気分です…」

そうですか。悪かったですね。

「ハイハイ、では今から私の家へと案内します!」




3人は亮介の家へと向かった。

俺らにとってはいつもの、当たり前の通学、帰宅路を、落下少女は初めて見るかのように感心し、キョロキョロしながら歩いている。

「あの…」

「ん?」

落下少女が話しかけてきた。

「道の両側にたくさん並んでいる石の柱のようなものはなんですか?」

「石の柱?」

…ピカーン

「あぁ、電柱のことか」

「デン、チュー?」

「そう、電柱」

「デン、chu?(キス)」

ワー、ハイハイ面白イデスネー。

「その電柱の上に繋がっている線みたいなもので、1つ1つの家に繋がっていて、線から電気を流して家の中を明るく照らしているんだ」

「へぇ、そうなんですか」

そんな話をしていたら、俺の家に到着した。

「ここが俺の家」

「ここが亮介さんの家ですか…」

落下少女は、少し目を輝かせていた。

俺は玄関のドアを開け、3人中に入る。

「ただいまー」

「おじゃま〜」

「おじゃまします」

俺は2人をリビングに案内し、テーブルに座るように言った後、キッチンで3人分のお菓子と麦茶を用意し、2人のいるリビングに戻った。

「粗茶ですが」

そう言って2人に麦茶を渡す。

後に調べたところ、粗茶とは他人に勧める茶をへりくだっていう語。らしい。

「ソチャ?」

初めて聞いたのか、落下少女は聞き返した。

「…麦茶です」




「では、質問に入ってもいいですか?」

念のため、俺は落下少女に聞く。

「はい」

俺は、一呼吸整えてから質問に入った。

「まず1つ、なぜ上(空)から落ちてきたのか」

俺のこの質問に対し、落下少女は少し黙り込んでこう言った。

「もし、私がこの国、いや、この星の人間ではないと言ったら、信じてくれますか?」

この星の人間ではない…?

「…説明による、な」

「そうですか…」

俺は「そうだ」と頷いた。

「…では、今から数時間前の話をしましょう」




私の住んでいた星【ストクル】の私の住んでいた小さな国【クジンフ】は、穏やかな国でした。

私は、その国の王女で、いつも城の上から国の様子を眺めていました。

この日も穏やかに終わる予定でした。

そんな時でした。

私の国を敵視していた国【フィレクシス】が、私の国に大量の軍隊を送りつけ、私の国を襲いました。

植物、建物、人まで焼き尽くし、ついには城まで攻めてきました。

執事たちが、敵軍の攻撃を抑えようとしたのですが、圧倒的な数の差ゆえ、防ぐことはできず、とうとう私のいる最上階へと近づいてきました。

これで終わりなのかなと思っていたその時、1人の執事が私に、瞬間移動魔法を使い、私だけをどこか遠い所へと瞬間移動されられ、現在に至ります。

「信じて、もらえますか?」

「…うん、まあ…」

「立派な妄想話だな」

隼人が首を突っ込む。

「お前、こいつの話を嘘だと思ってるのか?」

「ああ、そうだが…」

こいつ…

「じゃあ、なんで今の話が嘘だと言えるのか言ってみろ」

そう言われた隼人は、「はぁ…」とため息を吐いてこう言った。

「第一、地球以外人が住める星はまだない。

第二、科学的根拠から魔法を使えるのは無理だ。以上」

…反論できねぇ…。

「うぅ…」

落下少女は、信じてもらえなくてがっかりしている。

「まあ、俺は落下少女の話を信じるよ」

俺は優しくそう話しかけた。

その言葉を聞いた落下少女は笑顔を取り戻した。

「本当ですか!?」

「ただし!」

「?」

「ちょっと気になることを証明できたらだ」

「気になること?」

「そう」

隼人も話した気になること。それは…

「落下少女は魔法使えるの?」

「はい、使えますよ」

即答…!

「へ、へぇー。じゃあ見せてよ」

「いいですけど、お2人の中で怪我をされている人はいますか?ちょっとした怪我でもいいです」

「俺はないな」

隼人がそう言う。

「俺は膝にある」

俺はそう言って、長ズボンをめくり、膝を出した。

膝には大きな絆創膏が貼ってある。

「どうしたんだ、それ」

隼人が言う。

「ああ、体育で転んでさ。それで」

その言葉を聞いた隼人は、「プッ」と笑った。

こいつッ…!

「その、膝に貼ってある物を取ってもらっていいですか?」

「あ、ああ」

ペリッ

「うわっ、グロッ」

傷は大きく、(うみ)も出ていた。

「どうしたんですか?こんな傷」

「だから体育で…」

「タイイク?」

「ああもう!サッカーでスライディングされて派手に転ばされてこうなったの!」

隼人はその情景をイメージし、痛々しく思った。

逆に、落下少女の方は、サッカーという言葉がわからないらしく、未だにイメージがわかない様子。

「では、魔法を見せます」

3人に緊張が走る。

膝の傷口に落下少女は手を近づけ、目を閉じて集中する。

膝の傷口に近づけた手のひらから、淡い緑色の光が出て、更に傷口が濃い緑色に発光した。

その現象は3秒続き、止んだ頃には傷は完治していた。

「「!!」」

2人は驚いた。

傷が、消えた…?

試しに傷があったところを爪で軽くかく。

俺の肌そっくりの絆創膏やシールを貼ったわけではなさそうだ。

本当に完治したのか?あの3秒で?

「今のが私の魔法【回復魔法】です」

「回復、魔法…」

す、すげぇ。

感心していた俺と、驚いて口が塞がらない隼人。

そんな隼人は落下少女にこう言った。

「魔法を使えるのは不可能だか、本物を見せられては反論はできない。君の話、信じるよ」

(悔しいが。)

「あ、ありがとうございます」

落下少女はニコッと笑う。

「握手はわかるだろ?」

隼人が手を出す。

落下少女は両手で隼人の手を掴み、握手を交わした。

「自己紹介が遅れたが、俺は小鳥遊(たかなし) 隼人(はやと)だ。よろしく」

「私は…」

「さっき聞いたからいい」

「あ、そうですか」

「じゃ、そろそろおじゃまするかな。時間もあれだし」

時計の針は19時をすぎていた。

「そうか、気をつけて帰れよ」

「ああ」

俺はリビングに落下少女を残して、隼人を玄関まで見送った。

「ところで亮介、あいつはこれからどうすんだ?」

隼人が問いかける。

「ここに泊める以外ないだろう」

「そうか」

靴を履き終えた隼人は、玄関のドアを開き、

「女の子と1つ屋根の下で2人っきりで楽しそうだな。まあ、頑張れ」

と言い残し、家を出た。

あいつ、今日はムカつくな。

でも、女の子と1つ屋根の下、か。

いやいやいや、何を考えてるんだ俺は!

リビングに戻る。

「なあ、落下少女」

「はい?」

「泊まる場所と言いますか、寝る場所はあるの?」

「残念ながら、そのような場所はなくて…」

「そうか」

ぐっ、その後の言葉が緊張する!告白みたいで恥ずかしい!

「お、俺の家に、泊まっていくか?」

おわーー!恥ずかしい!

「いいんですか?」

「も、もちろん!」

「ありがとうございます!」

うほっ、笑顔が眩しい!

「じゃあ、お風呂に入ります?」

「では、そうさせていただきます」

俺は風呂場へと案内した後、シャワー、リンス、シャンプー、などを説明した。

「じゃあ、着替えはここに置いておくから」

「ありがとうございます」

ここからは女湯へと変わるため、男は速やかに風呂場を出て、扉を閉めた。

落下少女が服を脱ぎ始める。

「なあ」

俺は扉越しに落下少女に話しかける。

「はい」

「落下少女は、元の場所に戻りたいのか?」

「そうですね…もし戻れたとしても、敵軍がまだ残っている可能性も十分ありますし、今の戦力じゃ敵軍と戦えるとは思えません。例え敵軍がいなくても、焼け尽くされた私の国を建て直そうとしても、人手が足りないでしょう」

戻ったとしても、迎えるは自分の国の最後、ということか。

「亮介さん」

「ん?」

「私は、ここに逃げてきたのでしょうか?」

逃げてきたのか、か。

「そんなことはないと思うよ。だって、落下少女がここに来る時に使われた瞬間移動魔法は、落下少女が最後の希望だからと、その希望をなくしたくはないと思って使ったんじゃないかな?」

「そう、ですか」

これで、少しは心の励ましになれたかな。

「なあ、落下少女」

「はい」

「約束するよ」

「何をでしょうか?」

「いつか、大きな戦力をつくって敵軍を圧倒して、落下少女の国を建て直すって」

その約束が10年、いや、さらに時間がかかっても、その約束は守ってみせる。絶対だ。

その言葉を聞いたから落下少女は泣いた。嬉しさのあまり泣いた。

「ありがとうございます」

落下少女はそう言って浴槽に入った。

俺はリビングに戻る。

落下少女は、自分の国を亡くし、仲間とも離れ、初めての場所、地球に移動させられ、悩みが積もって懊悩になっている(だろう)。

そんな落下少女を、さっき俺は、悩みを軽くすることができたのだろうか。

俺はコップに牛乳を注ぎ、飲みながら考える。

大きな戦力をつくるって言ったけど、どうするか考えてなかったな。どうしよ。

しばらく考えると、落下少女の声が聞こえた。

「亮介さ〜ん」

ガチャと扉が開く。

「はーい」

声のする方へ目線を送ると、

「ぶふぉっ!!」

全裸の落下少女がずぶ濡れ状態で入ってきた。

膨らみのある胸、美しき曲線、綺麗な肌。うぅ…

「体を拭くものはないかな?体が冷えそうだ」

「ままま待ってくれ」

バスタオルを着替えと置かなかったのか?この俺が?

いやいや、そんなことはない。

時間を巻き戻せぇ…

着替えを置いたあの時、バスタオルがないことに気づいた俺は取りに行くと決めたな。その後…あっ!

扉越しにいろいろ喋って、そのことを忘れたのか!俺としたことがぁ…!

「いいい今からバスタオル持ってくるから!」

リビングを出たその瞬間だった。

廊下が濡れていて滑りそうになった。

廊下が濡れている?

その濡れは、風呂場へと続いていて…

チッくそっ、仕事増やしやがって!

落下少女の裸姿を見て緊張した俺のこの気持ちはすっとび、やや怒りモードへと切り替えられた。

急いでバスタオルを取りに行く。

「体は自分で拭けるか?」

「あ、はい」

「じゃあ、頑張って」

そう言って、すぐ廊下の拭き掃除へと移り変わる。

くそう、こんなのと毎日暮らさなきゃ行けないのか?

俺にとっての懊悩じゃないかぁ!

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