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神に攫われた男  作者: 平澤間宮
人間から創造主へ
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2

結果的に言えばルブ以外の二人の修行は驚くほどスムーズに進んだ。

とにかくカーラは回復以外の魔法を覚える事から始まって、修行開始から一週間位で夕飯の手伝いとたまにおやつにクッキーを焼けるようにまでは成長した。呪文の暗記には真面目な性格が存分に発揮されていたと思う。

サラマンに至っては動かない的相手になら百発百中と言っても過言ではない位の腕にはすぐに到達した。ニカに貰う前から才能があったんだろう。二重掛けされたおかげか最終的には俺をも凌ぐまでになりそうだ。


と、まぁカーラとサラマンだけを褒めてはみたが、別にルブが下手くそとかそういうわけではない。むしろ元々剣が好きだった分ひたむきに鍛えるから伸び代は半端じゃない。

しかしこればっかりは相手がいないと話にならないのだ。一流の剣士とは相手の動きを読み、かわし、そして切ることにあるのだからいつまでも素振りと案山子相手に模擬戦している場合ではない。


しかし有効な手立てを立てられないまま五年が経とうとしていた……。




「おーい三人共ー」


ニカの祠から戻った俺は五年前から拡張された道場に向かって声をかけた。するとぱたぱたと駆けるような音が次第に大きくなり、ギギギと軋みあげながらドアが開いた。去年武器を作っていたルブが誤って金床を放り投げて壊してしまったドアだ。嫌な音がなるだけで普通に開け閉めは出来るから放っといている。


「お師匠様おかえりなさい!」


入り口から顔を覗かせたのは伸びた髪をハーフアップにしたカーラだった。当時はまだ9歳だったが、最年少の彼女ももう14歳。そのうちお師匠様の服と一緒に洗わないでくださいとか言うようになるんだろうか。精神年齢は肉体に依存したりもするらしく、体が20歳のままの俺は三人を自分の子供のように思ったことはないが、それでもどこか物悲しくなる。


「今から新しい修行を始めるから二人を呼んで来て」


俺がそう言うとカーラは来た時と同じ様にぱたぱたと走り去って行く。その間に俺は新しい修行の為にニカと試行錯誤して作った道具を生み出した。相変わらずそれは足が遅くぼーっとしている。


「お師匠様、呼んできましたよ……ってなんですかそれ!!」


驚いたように声を荒げるカーラに道具が反応してのろのろとゆっくりそっちに歩いていく。状況を理解しないまま、ルブが二人を庇うように一歩手前に足を踏み出し竹刀を構えた。数秒遅れてサラマンも弓を絞り、カーラも杖を構えた。


うん、まだ魔物と戦わせたことはないけど中々様になっているんじゃないだろうか。前衛、後衛、回復補助が各1人ずつの三人パーティ。生きはしっかり合っているから修行がもうひと段落したら森に入って見てもいいだろう。


「師匠!? のんびりしてないで説明してください!これは魔物ですか?」


ルブは混乱しているようにも見えるが、よくよく見ると顔色が悪い。もしかして怖いんだろうか? 絵心がないからあえてのっぺらぼうにしたんだが、逆効果だったみたいだ。俺はカーラに向かって行くそれの首根っこをひっつかむと三人に武器を下ろすように指示を出した。


「まぁまぁ落ち着け、これは新しい修行の為に作った道具だよ」


まぁ人型だしやりにくいかもしれないけどな。


「これは人型の動く道具だ。生き物じゃない。聴力はあるけどより大きな音が鳴る所に向かって行くだけだし、攻撃もただ腕を振るだけだ。遠慮なくぼこぼこにしてくれ。こんな風に」


俺は掴んでいた首根っこを離すとそれの耳元で「わっ!!」と叫んだ。サラマンがびっくりして竦んだのを尻目にこっちを振り向き向かって来るそれの頭を拳で思いっきりぶん殴った。するとパズルでも崩したように硬質な肉片がバラバラと地面に散らばって行く。


きゃ、と小さく悲鳴をあげたカーラを無視してそれを見つめる事数十秒。重力に逆らって肉片は次第に元の位置に戻っていく。


「……って感じに自動で修復するから何回でも壊せる。そうだな、ゾンビ君って名前にしよう」

「ゾ、ゾンビ君……」


ネーミングセンスがなかっただろうか。まぁ良い。


「まずは一人に一体ずつ出すから、動くそれを倒せ」


三人は初めはおどおどしていたが、慣れると段々大胆に動くようになった。

足の遅いゾンビ君をギリギリまで引きつけて壊す、とか。あえて掴ませてから壊す、とか。


「うん、じゃあレベル2な」


ぽん、と同じ見た目で額に2と書かれたゾンビ君を出す。それと同時に無印ゾンビ君は消した。


「? 何が違うんですか?」

「戦っていればそのうち分かるよ」


三人はまた初めの時みたいにおっかなびっくり壊し続けていたが、そのうち肩から力が抜けた。まるでその瞬間を待っていたみたいにゾンビ君が腕を伸ばす。


「!? うぎゃっ!!」


サラマンの悲鳴に丁度ゾンビ君を倒したところのカーラとルブの動きが止まる。「え……?」と訝しげな目でこっちを見るが俺は何も言ってやらない。


起き上がるゾンビ君にビビりながらも悲鳴をあげる前よりむしろ闘志を燃やしたサラマンを見て、どうやら危ないものじゃないと分かったらしい。


「大丈夫だよ、まだまだ小さな子供でも平気なレベルだから」


大丈夫じゃないのは全10段階あるうちのレベル6からだ、とは言わないでおく。

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