修行
次の日、夜遅くまでお喋りしていたせいで寝不足の三人を家から引きずり出した俺はパパッと道場を作り出した。イメージは体育館。中には弓道の的も付けておく。
「わーこんな大きな建物も一瞬何ですね!」
ルブが俺と道場を交互に尊敬の眼差しで見つめる。今にその余裕はなくなるぞ。
「よし、じゃあまず打ち合いするぞルブ」
「えっ!?」
「一回やりあってみないとお前がどの位のレベルなのか分かんないだろ。カーラとサラマンは見学な」
「「はーい」」
ぽんっと作り出した竹刀もどきを渡してやると観念したのかルブはごくりと喉を鳴らした。真剣じゃないんだからそんな強張らせなくていいのに……。
「よし、じゃあそうだな。剣を落とさせるか、これが殺し合いなら死んだなってところで終わり。分かったか?」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
さすが日頃チャンバラをして遊んでいただけあってルブの剣の持ち方は中々様になっていた。まぁニカに後天性の才能を貰っているせいかもしれないが、それを抜きにしても昔の俺なら簡単にやられていただろう。
始め、とサラマンが言う合図と共にルブが腰を低くして俺に向かってきた。身長差があるから首や頭を狙いにくい分ルブには不利だな。狙うなら腹か背中か…。
ひゅっ、と風を切る音が耳元を掠める。俺の予想を裏切って竹刀は額を狙ってきた。
おぉ、と軽く驚きつつも重心をずらして軽く避ける。ついでに脇腹を叩こうと腕を振るうが流石にそれは当たらない。つるつるな床にずっこけそうになりながらも何とか踏ん張りルブは俺をキッと睨んだ。
「師匠!本気でやってくださいよ!」
「え、あ、あぁ」
いや全然あぁじゃないわ。本気でやったら今のでもう試合終了だろ。
「本気で打ち合いたかったらお前が俺を本気にさせてみろ」
軽くドヤ顔でそう言えば少しだけ威圧的に聞こえたのかルブが体を震わせた。
「……思いっきり叩きますからね」
ぎゅっとルブが手に力を込めた瞬間俺は手を横に払った。
「っ!!?」
確かな手応えと共に息を飲むような音。竹刀に伝わる振動。
……ぶっちゃけチートな俺だけど戦った経験は数える程度しかないから手加減とか正直よく分からない。もちろん全力なんか出してないけど相手は子供だ。
俺は内心焦っているのを悟られないようにゆっくりとした足取りで吹っ飛ばしてしまったルブの元に向かった。カーラとサラマンは無言なまま身動きすらも取れないでいる。
「大丈夫か?」
どうしよう大丈夫じゃないとか言われたら。すぐそこにはレベル3の回復魔法が使えるカーラがいるし、俺ももちろん使えるけど、初修行で骨折とか脱臼しちゃったら士気が下がるだろう。
しかしルブは俺の心配なんて梅雨知らず、むくりと起き上がるとぶーっと口を尖らせた。
「なんで師匠の右手側を狙うって分かったんですか!」
「は……? あぁ、えっと、だってお前、目が右向いてたから」
そんなの初歩の初歩だろ。向こうの世界で小学生だったときからドッヂボールとかで使ってたぞ俺。
どうやらルブが無事らしいことが分かると他の二人から明らかにホッとした空気が伝わってきた。まぁはらはらするよな。すっごい飛んだし。むしろ何で無傷なんだ。ニカのおかげか? あんまり強化されすぎても困るんだけどな。
「よし、とりあえずルブは念の為カーラに治療してもらえ。次は弓だ」
俺が振り返りつつそう言うとサラマンがあからさまに嫌そうな顔をした。
……そんなに怯えなくても怖くないぞー。