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短編

人間

作者: RK

 かつて世界は滅び、人類は細々と生きていた。

 誰もが新しい世代に光を見いだせず諦観による緩やかな死を迎えようとしていた。

 子供達は大人の「世界が滅びた」を信じ込み、未来を諦めていた。

 そのような状況で、現在を見据え、未来を夢見た少年が居た。

 彼は鳥かごのような故郷を捨て去り旅に出た。

 自らの目で見た本当の世界はやはり諦観に満ちていた。

 だが、世界は滅びていなかった。

 世界が滅びたのなら自分達はここにいない。

 彼は世界を渡り歩きそれを伝えて行った。

 いつしか、彼は世界を救い、人々を苦難から救った救世主と呼ばれるようになった。

 彼は滅びた世界を破壊し、新たな世界を創造した。

 救世主の話をしよう。

 救世主、それは人を救う者。世界を救う者。

 神より使わされた救世の使者。

 人ならざる存在。

 だが、彼はそうだったのだろうか?

 救世主である彼は、人ならざる存在だったのか?

 否である。

 彼は誰よりも人であろうとした。

 生きることを諦め、緩やかな死を受け入れた人の中で、彼だけが人であることを諦めなかった。

 そんな彼を人は救世主と呼ぶ。

 救世主、それは人ならざる者。

 人が人によく似た存在を受け入れることが出来るのだろうか?

 受け入れいることは出来ないだろう。

 彼は人でありながら、人であることを止めさせられたのだ。

 無辜の怪物。

 罪なき咎人。

 彼は世界を救いだした一方で、怪物として恐れられたのだ。

 理解者なき世界。

 彼が自らの命を削って救った世界は、彼の命を更に削り取った。

 生みの親を否定した。

 こうして磔にされている姿は痛ましく、ぼろぼろになった姿は見るに堪えない。

 道行く人々は彼を蔑む。見下す。そして恐れる。

 彼に理解者は居ないのだ。

 彼の偉業は、人間に成し得ることはできない。

 彼が救った世界。

 そこで神の救いを教える場所がある。

 彼らは自らが救われた恩を仇で返しているのだ。

 彼らは彼らの救世主しか認めない。

 彼らの神は彼を救世主と認めない。

 彼は救世主ではない。

 世界を滅ぼした悪の使いなのだと。

 自らが滅ぼした世界を修復するのは簡単だろう。

 彼らはそう主張するのだ。

 悪魔の証明。

 彼は自らを悪魔で無いと証明することはできなかった。

 本当の悪魔を連れてきて検証しなければならない。

 世界を救ったのなら簡単であろう。

 それが教会の言い分だ。

 彼はそうして磔にされた。

 彼はそれまで、人間だった。

 欲を持って世界を歩き、結果的に世界を救ったのだ。

 各地で彼が見た世界は彼に様々なことを学ばせた。

 彼はそういう意味では救世主に近かったのかもしれない。

 だが、救世主には人間では成りえない。

 英雄は人間がなるものだ。

 だが、救世主には自らなるものではない。何時の間にかなっているものだ。

 そう、いつのまにかなっている。

 それは、悟りを開いた時、つまり、人間を止めた時だ。

 彼は人間であることを止めた。

 生きる欲を捨てたのだ。

 彼は生きているには他の人々に影響を与えすぎる。

 ここで死んだ方が、世界はもっと良くなるのだろうと考えたのだ。

 その時、彼は本当の救世主となった瞬間である。

 救世主、神より遣わされた存在を、たかだか人間が殺そうとするのだ。

 神、それは人間が生み出した概念。

 人を罰するために存在する神は決して救いの手を刺し延ばすことはない。

 彼らは救いをもたらさず、罰をもたらす。

 七日間、それで世界は滅びた。

 本当の意味で世界は滅びたのだ。

 人間の存在はなくなった。

 居るのは救世主となった彼だけ。

 神は告げた。

 お前が世界を作れと。

 人の心を知るお前なら、もしかしたらと。

 彼は七日かけて世界を作った。

 空間を、時間を、生命を。

 そして、人間を。

 彼は神となった。

 神を模した存在である自分。

 自分が神になったのでそれを模した人間。

 神を模した自分を模した人間。

 あえてそうやって作ったのだ。

 人間は完璧であってはならない。

 人間は不完全だからこそ人間なのだ。

 完璧な生き物は生きることを止める。

 生きることこそ無意味だと知る。

 世界を作り上げた後、僕は神を止めた。

 自ら作った大地に降り立ち人としての営みを始めた。

 

 これが世界を救った者の末路。

 救世主になったものは、人でありたかったものだ。

 人を強く愛し、誰よりも人であろうとしたちっぽけな人間。

 彼らは人であるがゆえに、逸脱した存在。

 人は神を模した存在。彼らこそ、本当の人であるのかもしれない。

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