チロが消えちゃった‼
4 チロが消えちゃった‼
「バナナ料理うまいねー!」
「おいしー!!」
11月2日 午後1時。
フー、ルー、まなみ、チェリー、アップル、バナナの六人は、バナナが作ったお昼ご飯を食べていた。
その頃チロはというと……。
ガチャン
はあー、まなみちゃんきびしーぬよー。掃除のあとご飯運びとかー。でも晩ご飯じゃなくてよかったかも!重くないし!
チロはごはんと味噌汁が三つずつ乗ったおぼんを持っていた。こぼさないように慎重に運んでいる。
「で、これからどうするんだ?」
「ニンポウツカウカ?」
ん?なんか聞こえる。さっきチェリー捕まえた三人が相談してるのかな?
「でも、にんぽうは確実じゃないでしょ。」
うさぎの女の子が言った。いや、女の子というより女の人か。チロよりだいぶ歳上っぽい。
それより、にんぽうってなんだろう。
「確実じゃなくてもそれしかねーよ。」
「キョウニンポウドンダケツカッタカオボエテルカ?」
「軽く10回はつかったな。」
「ジャアツカエネージャネーカ!オマエガオカシバッカリヌスムカラワルインダ!」
「え?俺のせい?」
なるほどー……。盗んだのはこいつかー。
わっ!こんなとこで盗み聞きしてたら、味噌汁冷めちゃう!そろそろ持っていかないと。
チロは三人の方へ歩き始めた。
「お昼ご飯です。」
チロはおぼんを差し出した。
「お!ここはお昼ご飯出るのか⁈」
くまが喜んだ。
「わざわざ私たちのために運んできてくれるなんて。ありがとう。」
うさぎがお礼を言った。
「ナアナア、」
とりが話しかけてきた。
「ん?」
「オレタチニキョウリョクシテクレナイカ?」
いきなりなんか言われたぞー!なんの協力をするんだろう。
「俺たちは、にんぽうという昔の移動手段について、研究をしている。でも三人じゃむりなんだ。協力してくれ。」
え?どーゆーこと?今チロどろぼうに、研究するから手伝ってくれって言われてるんだよね?それじゃあここから抜け出す手伝いとかもしなきゃいけないのかな?
「どーゆーこと?」
「話せば長いんだが……。」
「それ、あんたの盗みぐせ直してから言うべきじゃない?」
うさぎのコールが言った。
「ハヤクナオセヨ。」
続いて、とりのキールが言った。
そんな二人にかまいなく、くまのリールが話し始めた。
俺たちは三つ子だ。なぜか家族全員種族が違う。父はニキザル、母はスマリス、にいちゃんはひよこどり、俺はトールぐま、コール はショートうさぎだ。
父、ロールは昔からにんぽうについての研究をしていた。にんぽうというのは、さっきも言ったとおりこの世界特有の、動物移動能力の事だ。昔はほとんどの人が使っていたらしい。
ここでチロが口をはさんだ。
「どうぶついどうしゅだん?ってことはチロにも使えるってこと?」
「まあ、そういうことになるな。」
「どうやって使うの?」
「いいから黙ってきけ。」
今から30年ほど前に、ソルドが池球に来たのはお前も知ってるよな?
1980年、 丁度俺たちが生まれる1年前、地球の日本人、今この日木にいるソルドが、宇宙船に乗ってやって来た。 気前のいい日木のルワノたちは、その宇宙船を受け入れた。これは小学校でもならう、基礎知識だ。
ソルドたちはその後の出来事をここのルワノたちの記憶から消しさった。
「え⁈どーゆーこと?」
簡単に言えば、記憶を消す薬を作って飲ませたわけだ。
消しさった記憶の中身を俺たちの母親が調べてたんだ。
「そんなことできるの⁈」
母が突き止められたのは記憶の一部分だけだった。
『ソルドは私たちからにんぽうを奪った』
『魔法の存在を信じてはくれなかった』
ソルドが消した記憶はまだまだ沢山あるらしいが、母が突き止めたのはこれだけだ。
それを突き止める少し前、父がにんぽうという言葉だけを思い出した。にんぽうを復活させるために研究を始めた。
俺たちが生まれたのはその一ヶ月後だ。
そして、俺たちが生まれてたった一週間で、父が殺された。
「!!」
ソルドが研究を断ち切らせようとしたんだ。
さらに一ヶ月後、今度は母が殺された。俺たちはまだ、小学校に上がったばっかりだった。
俺たちは小さいながらも必死で両親の研究内容を守った。
そして、母が殺されて半年がたった頃、俺たちはもう一つの記憶を発見した。
『家を壊さないでくれ!』
当時中学生だった俺たちにはまだそれがどういう意味なのかわからなかった。
「今はどーゆー意味かわかるの?」
当時、日木には道路も線路もなかった。家は自分が住みたい場所に好きなように建ててよかったんだ。ソルドは自分たちが住みやすい土地にするために、今まであったルワノの家を全部壊した。好きなように建てられなくなった。それどころか、業者に頼んで作った家でなければ住んではいけなくなった。
そして、ルワノの生活はソルドに管理されるようになった。政府ができ、薬が配られた。
「くすりって……さっきの?」
「ソウダ。」
そこまでは解明できたんだ。
そして、俺たちが成生(大人になる)したその日から、俺たちはにんぽうの研究を引き継ぎ、今までやってきた。
にんぽうの解明はむずかしかったが、3年前、ついに解明に成功した。
「じゃあもう研究は成功してるんじゃないの?」
「チーロー遅いよー。」
バナナの声が聞こえてくる。
「ここじゃまずい。場所を替えよう。」
「え?みんなに話すんじゃないの?」
「大勢に話してソルドにばれたら大変だ。俺たちの研究は、政府に医療研究として提出してある。嘘ってばれたらまずい!」
「あなたの名前を教えてくれる?」
「チロだよ。」
「チロ、今からにんぽうを教えるわ。一人の力で移動は何人まででもできるけど、手をつないでおかないといけないの。覚えといてね。にんぽうを使う時は呪文をとなえるんだけど、今は時間がないから今回のだけ教えるわ。小さな声で『にんぽうR研究所へのじゅつ!』言って!」
なんかチロ協力するってことになってるけと……ま、いっか。
《にんぽうR研究所へのじゅつ!》
☆ ☆ ☆
「チーローごはん全部食べちゃうよー。」
バナナは扉を開けた。牢屋のなかは静まりかえっている。
よく見ると、本来いるべき場所に、いるべき人がいない。R研究所のやつらが消えた!チロとともに!
「ちょーっ!!みんなきてー!!R研究所のやつらとチロが消えちゃったーーー!!!」
バナナは大声で叫んだ。