お世話係まなみちゃん
2 お世話係まなみちゃん
「まなみ、ちょっと来なさい。」
「はい。」
パルカねこのまなみは、めったに家にいない父に呼び出された。
この家は大豪邸だった。要するに、《お金持ち》だ。
「チロが警察官になるらしい。だがチロ一人では少し不安だ。お前も警察に入りなさい。」
まなみとチロの両親は昔からの親友だった。そのせいか、まなみとチロも親友だ。なので、チロの性格はよく知っている。
「は……はい」
言い返す言葉も見つからなかった。
☆ ☆ ☆
11月1日 午前8時。
「おい、フーとチロはどないした。」
「…遅刻かな?」
トイプードルンのアップルが言った。
あの後、まなみを含め、四人が大坂府警に来た。
三人ともトイプードルンで、そのうちバナナとアップルは親友だった。
「チェリー、フーとチロ探してこいって~。一緒にに探そ~。」
バナナとアップルが言った。
チェリーというのは、三人目のトイプードルンだ。
「は~い」
チェリーは軽く返事をした……そのときだった。
「おっはよ~」
フーとチロが、声をそろえてやってきた。二時間の遅刻だ。
「おいっ!!」
三人は声をそろえて叫んだ。
「何やってんやー!!」
今度はルーが叫んだ。後ろでは、おじさんが顔を真っ赤にして立っている。
「初日から遅刻してくるとはどういうことやーっ!」
とうとうおじさんがしびれを切らした。
「えっ?」
フーとチロは、まだわかっていないようだ。
「今日は開署式やから準備もあるし六時集合やって言うたやろっ!?」
「ああー!」
二人で頷き合っている。どうやら納得したようだ。
「納得してどうすんねんっ!」
ルーがつっこんだ。
「ああー…っ!あと三十分で始まんで!急いで二人着替えろっ!ルー、さっき渡したやつ覚えたな?」
「もうバッチリです。」
「何に着替えんの?」
ルーと、フーとチロが同時に言った。
「フールーけいさつの制服にきまってるやろっ!」
おじさんが、フーとチロの問いに答えた。
「はあい」
こりゃだめだ…と、チェリーは思った。
「まなみちゃん?」
チェリーはまなみに訊いてみることにした。
「なんですか?」
「まなみちゃんはなんでお世話係になろうと思ったの?」
「実は自分からここに入ろうと思ったわけではないんです。」
「えっ!そうなの?」
「はい。チロがあんなんなんで、父も心配だったんだと思います。」
「そんな理由だけで入ろうと思ったの!?」
「いえ…ほぼ命令されてるのと一緒ですよ。」
チェリーは驚いた。世の中には自分の好きなように生きれない人もいるんだなぁ…。
「…けいさつに入って楽しい?」
「楽しいですよ。」
まなみは即答した。
「 こういうハプニングとかもありますからね。」
どうやらまなみは、この状況を楽しんでいるようだ。
「おまたせぇ~!」
フーとチロが着替え終わったようだ。
「よっしゃ!そろったで!はよ準備しろ!あと十五分でセットし終えなあかんねんから!」
おじさんが叫んだ。
☆ ☆ ☆
―15分後…
パンパカパーンっ! 華やかなファンファーレ?のような音が響いた。
たかが小さな警察署の開署式のためだけに、有名なバンドを呼んだらしい。
こんな朝早くから何の音がしているのだろうと思ったらしい近所の住民が、家から出てきた。
やっぱりうるさいのだろう。耳をふさいでいる。
―こんなことを思いながら、チェリーはパイプいすに座っていた。
おじさんが、壇上で長々と話している。
どうやらおじさんは大坂府警の本部長だったらしい。
―「フー、出番だよ。」
アップルが囁いた。 フーは隣で寝ているようだ。
「なんで結局こうなんねんっ!」
ルーはフーをペシッと叩きながら言った。
「…こうして開署することができて、本当によかったです。」
パチパチパチ
壇上ではフーが話していた。
あのあと、ルーが壇上に上がり、フーが清書した紙を開いた。清書といっても、七歳とは思えないくらいの下手さだった。
読めないところはすっ飛ばし、アドリブを交えながらルーが読んでいく。
丁度、「私たち(ぼくたち)フールーけいさつのメンバーは、(ふールーけいさつのノンバーは)」あたりにさしかかったところだった。
フーが急に、ガタッと椅子から立ち上がり、ルーのいる壇上に上がってきた。
そして、ルーを押しのけるようにしてマイクの前に立つと、何事もなかったように、最初から読み始めた。
☆ ☆ ☆
「はあ~。やっと終わったよ~…。」
もううんざりっ!と言いたげな顔で、チェリーが言った。
「あいつ後でしばいたらな!!」
ルーはフーを睨みながら言った。
「ああ~、後片付けやだよー!」
バナナが言った。
「でも…」
アップルが言いかけた時だった。
「フールーけいさつ、全員集合せえ!」
おじさんが叫んだ。 このおじさん、叫んでばっかり…。チェリーは思った。
「フーとチロ、来そうにありませんが、どうします?」
まなみがおじさんに訊いた。
「丁度ええ。あいつがおらんうちに言っとくわ。名前的にも今日の流れ的にもフーが署長みたいな感じやけど、あいつには任せられへん。今日ではっきりしたわ。そこでや。ルー、お前署長にならへんか?」
「はぃ?」
ルーは一瞬驚いた。
「あんな汚い紙やったのにアドリブ入れてちゃんと読んでたし、名前的にも合ってる。」
「今こそフーを懲らしめるチャンス!!」
バナナがワクワクしながら飛び跳ねた。
「それもそうやな…。」
ルーは妙に納得して、ニタッと笑った。
「このこと知ったらフー悲しむでぇ~。よっしゃ、やったろ!!署長なったろ!」
ルーはやる気になったようだ。
「ルー、がんばれぇ!」
みんなが励ました。
「え?ってことは、署長が二人になったってこと?」
急にアップルが言った。
「そういうことぉ~」
バナナがそれに応えた。
「じゃあ本当の署長はどっちですか?」
「ん~…」
おじさんはまよっているようだ。
「ルーでよくない?」
チェリーが言った。
「フールーけいさつやのに?」
「どっちでもいいんじゃない?」
結局本当の署長は決まらなかった。
☆ ☆ ☆
11月1日 午後5時30分
「今日の晩御飯は本部からお金でるから、いっぱい食べれんで~!!」
焼肉店で、ルーが叫んだ。
「あ、でもさっきお菓子沢山食べたので、お腹いっぱいです!!」
まなみが叫び返した。
「なんで食べてくんねん!!今日焼肉っていったやろっ!!」
「出されたら食べたくなりませんか!!」
焼肉店は、叫ばなければならないくらい混雑していた。
「それくらい我慢できるやろ!!」
「でも、私もお腹いっぱいだよ!!」
チェリーも叫んだ。
「バナナも!!」
バナナも加わった。
「ぼくも!!」
「チロも!!」
「私も!!」
「ええええ!!」
ルーは一人むなしく、大声で叫んだ。