ポスター
1 ポスター
2010年10月10日
大坂中にポスターが貼られた。
『警察になろう‼種族、性別は問いません。満一歳から二十歳までの若い世代の方を募集しています。お気軽にお電話ください。電話なしでの対応、不可。定員二十名。 大坂府警 電話番号 23-59』
そのポスターを、くいいるように見つめている一人のポールぐまがいた。
見た目からして、五歳は超えている。青いシャツに、緑のズボン。シャツには自分の名前が【FOO】と、横書きで書かれていた。
そしてーーそのくまは走り出した。
同じ頃……そのポスターを見ながら目を輝かせている、一人のビーベーグルがいた。
背が小さいところをみると、おそらくメスだろう。
ありきたりの赤いワンピースを着ている。
ロゴは【ROO】だ。
またまた同じ頃……三人のゴールデンしば犬が、ポスターの前に立っていた。
警官の服を着た二人に、一人が挟まれている。挟まれている犬は、ピンクのシャツに、プリーツスカートをはいていた。
そしてロゴは…… 【TIRO】
ダダダダダッ
大坂府警察署に向かって、ものすごい足音をたてながら誰かが走ってきた。
「とうちゃーく!ね、ぼく、一番乗り、だよね?」
息を切らしながら走ってきたのは、ポールぐまの『フー』だった。
「なんのことでしょうか。」
受付に立っていたソルドが言った。
ソルドとは、人間のことだ。
人間が池球に来てから、もう30年になる。地球爆発から逃れようとして、偶然見つけたこの池球にやってきたのだった。
幸い、ここのルワノ(二本足で立ち、しゃべる動物)は友好的で、そうゆうことならと池球への移住を了承した。だが、それは日木に限ったことだった。アベリカや、ブランズなどの他の国々は、人間の移住を認めないと言ってきかなかった。
それを期に、日本人が池球に移住してきた。断られたアメリカ人たちは、地球に残ったのだった。
「え……?だってそこにポスターが……」
フーは戸惑いながら言った。
すると、ソルドが奥に向かって叫んだ。
「署長っ!ポスターを見た警察志願者が来ましたよ!」
その後、ガタガタッという音がして、
「電話か?」
もうとうに六十は超えたであろう、おじさんが現れた。
「電話ちゃうんか。」
「え?電話?」
「あんなあ、なんで電話してからけえへんかったんや?」
「電話って?」
フーはきょとんとしている。
「ポスターの下に電話番号書いてあったやろ?電話もせんとよう場所わかったなあ。」
「電話番号なんか書いてあったんですか?」
「見てへんかったんかい!電話なしあかんってちゃんと書いてあったやろ!こんなんで警察勤まんのか?やっぱり五歳以上にしとかなあかんかったんや。お前何歳や?ちょっとでかいけど二歳とかそんなんやろ?」
「な……七歳です。」
さっきまで威勢のよかったおじさんが、
急に声のトーンを落とした。
「な……七歳か?ほんまに七歳か?」
「今年の5月に七歳になりました。」
「……規制しても意味ないってことやな……」
おじさんがつぶやいた。
「?」
「で、お前は何希望や?」
「希望?」
「役職や。」
「あ、署長です。」
おじさんは思った。
やれやれ、こんなんが署長になってやっていけんかいな……
「はいはい。署長ね……住所と電話番号。」
「……えっ?」
「なにが『えっ?』やねん!住所と電話番号ゆうたらわかるやろ。はよ教えろ。」
「え えーと……桜山に住んでいました。電話線つながってなかったんで電話番号ありません。」
「……ちょっとまて!なんで過去形なんや?今はどこに住んでんや。」
おじさんはこんなやりとりに疲れてきた。
「今は……野宿?」
「野宿!野宿か!家探せよ!もう七歳やろ!立派な大人や!何やってんねん!」
ルワノは一歳で成人する。そこから三十歳までは同年代だ。
つまり、一歳で人間の二十歳と同じ歳で、その後三十歳までは一歳だろうが二十七歳だろうが歳的に一緒ということだ。
違いは、沢山経験を積んだか積んでないかだけ。一歳になれば、大学にも行けるしお店も開ける。そういう種族だ。
「お前、六年間何やってたんや?」
「え?何って……釣りとか……?」
「釣りか!っ六年間釣りしとったんかっ!
あかんあかん!六年間釣りしかしてへんかったやつに署長なんか任されへん!」
「えっ!」
フーは本気で驚いた。
「えっ!ちゃうわ!ええか、ここに来る時は……」
ダダダダダ
「こんなふうに……」
ダダダダダ
「……ぃーまーせーんー!」
「……ィーローがーさーきー!」
二人の人物、正確に言えば二人のルワノが猛スピードで走ってきた。
キキーッ‼
フーとおじさんの前で、二人は急停止した。
「お、お前らも警察志願者か……?」
「しょうれしゅ」
ゴールデンしば犬、チロが言った。
「うちもです。」
こっちはビーベーグルのルーだ。
「ルーだ!」
フーが叫んだ。どうやらフーとルーは顔見知りのようだ。
「……お前らそろいもそろって何やってんやっ!」
「あ、すいません。家の電話壊れとって電話できませんでした。」
ルーが言った。
「こっちはまだましやな。」
おじさんはホッとしたようだ。
「電話?」だが、もう一人アホなやつがいた。
「もう説明すんのも嫌になってくるわ。」
「そんなにチロのこと嫌い?」
「……お前……こいつよりアホか!」
もうこんなんこりごりや……おじさんはそう思った。
「お前こいつに説明したってくれ。」
おじさんはルーに向かって言った。