エピローグ
外では雨が降っていた。あの後、しばらくして天気は雨へと切り替わったのだ。日泉は未だ放心状態で箱の前に座り込んでいる。
かたや夜湖さんは発掘した人形を目を輝かせながら応接室の壁際に並べていた。出土した人形は京戯という夏の伝統芸能に使われる操り人形なのだそうだ。極彩色の錦の着物を着せられたそれは全部で十体あった。夜湖さん曰く、二、三百年ほど前のものから、作成年月が不明のものもあるらしい。
「イルザはどうしたんだよ」
ボソッとイーグルが呟く。と、ハーディーが思い出したようにおもむろに次元の穴を広げた。
「これのこと?」
器用に片手だけ異次元に突っ込み、薄汚れたぬいぐるみを取り出すハーディー。すると『イルザ』の名前に夜湖さんは素早く反応した。
「イルザ、何て姿に……アイヤー、痛々しいネ」
目の辺りにはほつれた糸がチョロンと伸びていた。夜湖さんはすぐさまハーディーからイルザを受け取ると、そのぬいぐるみを優しい手つきで何度も撫で付けた。
「夜湖様、お貸しください。それくらいなら何とかなりますから」
ヤレヤレとでも言いたげに、クロウが手を差し出す。その言葉を聞いて夜湖さんの顔がパッと明るくなったのは言うまでもないだろう。
そのまま席を外して部屋の外へ出て行くクロウの背中を見送ると、わたしはもう一つ疑問に思っていたことをハーディーに尋ねた。
「で、あんたみたいな奴が何故日泉なんかに宝物とやらを盗まれたのよ?」
「だってレン、言ったでしょ? ゼンとお茶してこいって。実行に移したら気分が萎えちゃって、萎えちゃって」
肩をすくめてゼンを見るハーディー。その言葉に、いつものようにゼンが食いつく。
「それは俺の台詞だ、ハルディクス!」
ガタンと音を立てて席を立ったゼンをハーディーは鼻で笑った。
「真似しないでくれる? 猿まね剣山」
「だ、誰が猿まね剣山だ!」
「ゼンに決まってるでしょ」
あー、うるさい奴ら。
冗談を真に受けないでよね。ホントにもう。
「ヤムチャ、召し上がるですか?」
櫻と柳が勧めてくるお茶や点心を口に運びながら、わたしはこいつらとの付き合いをもう一度考え直すべきだな、と堅く心に誓ったのだった。