ゾンビライフ ~ゾンビになっても恋していいですか?~
世界は今、未曾有の大危機に瀕していた。
謎のウイルス、通称ゾンビウイルスが各地で猛威を振るい、いわゆるゾンビパニックのような事態になっていた。
非感染者達は、ゾンビ達を倒し、立て籠り、作戦を立て、生き延びた。研究者達に望みを託し、また自らも謎の解明に挑む。
これは、そんな生存者達の物語……。
『なんでゾンビになっちゃったの~!!!!』
『なっちまったもんはしょーがねーだろ』
ではなく、ゾンビになってしまった者達の物語。
私の名前は伊藤 詩織(いとう しおり)。ごくごく普通の女子高生……だった。
始まりは突然。教室にゾンビが入ってきて、あれよあれよという間に私もゾンビになってしまった。
『普通さ……生存者側でドラマを繰り広げるもんじゃないの……?』
『現実ってこんなもんだよ』
私と話しているのは原 健司(はら けんじ)くん。同学年だがクラスが違ったので、生前の面識はあまり無いが、ゾンビになった時期が同じなのでなんやかんや話をする仲になった。
彼はクラスメイトを守ってゾンビになるというドラマチックな展開をやってのけたらしい。凄い。
ちなみに、普通に話をしているように思えるが、これはゾンビ間だけに通じるみたいで、生存者側からは「あ~」とか「う~」とかしか聞こえないという話を後輩ゾンビから聞いた。
『せっかく華の女子高生になったのに……恋の一つや二つしてみたかったのに……なんでこうなっちゃったの……? 憧れの一条先輩と生存者側ライフを謳歌したかった……』
『あのイケメン文武両道の』
『うん……』
『まあ、ゾンビライフでも謳歌しようぜ』
原くんは前向きだなぁ……。
でも私だって諦めない……! ゾンビになったって恋をしてやる!
そうして私達はゾンビライフを謳歌した。
ゾンビになると、ウイルスのせいなのか生存者を襲いたくなる。感染させる方法はよくある噛まれたら、ってやつ。
ゾンビになると知能が低下して、集団で行動するようになる。
私達はそうやってゾンビを着々と増やしていった。
『なあ、そんな恋とかしてみたいか?』
原くんは私に尋ねる。
『まあ、そりゃ乙女の夢だもの』
『一条先輩みたいな王子様キャラがいいのか?』
『まあ』
『ふーん』
そんな他愛もない話を原くんとしているのは楽しかった。ゾンビになってどん底まで絶望しなかったのは原くんのおかげなのかもしれない。
ある日、私は校舎の中を一人さまよっていた。何故か他のゾンビ達はいない。
『(なんでだろう)』
不思議に思いながら歩いていると、近くの美術室から物音がした。
『(誰かいるのかなー?)』
覗いてみると、なんと。
「ゾンビ!? くそっ……流石に全部は引きつけられなかったか……」
憧れの一条先輩!
「司……」
と女の子。たぶん先輩かな?
「百合花はさがってろ……」
一条先輩は女の子の盾になるように前に出て鉈を私に向ける。それは、紛れもない敵意で。そして、女の子は大切そうにされて。
それで、私はわかった。ああ、私はどこまで行ってもゾンビで、恋なんてできないってこと。
一条先輩は私に向かって鉈を振り下ろす。ゾンビは頭を潰すか首を切り離せば真の意味で死ぬ。
恋……したかったな……。
その時、私は誰かに突き飛ばされた。
ザシュッ!
「まだいたのか……!」
一条先輩は苦々しげな顔をする。そこには……。
『原……くん……?』
左腕を切り落とされた原くんがいた。
『なんで……』
『勝手にピンチになってんじゃねーよ……』
一条先輩は女の子を下がらせているが、そんなことどうでもいい。
『どうして私なんて庇ったの!?』
一条先輩はもう一度臨戦態勢に入る。
『俺がお前のこと好きだから……』
『え……?』
一条先輩がこちらとの距離を測る。
『俺じゃ一条先輩の代わりにはなんねーこと……百も承知だからさ……。でも……お前ならきっと恋できる……。いい奴だから……』
一条先輩は原くんに鉈を振り下ろす。
『応援してるぜ』
ゴシャッ。
原くんは最期にそう言って頭を潰された。
「あと一匹……」
一条先輩はこちらに近づいて来る。
私は、原くんの言葉を頭の中で繰り返す。
そっか……そっか。ゾンビになっても恋していいんだ。
ゾンビだから涙は流れない。でも、私は今、原くんへの想いでいっぱいだった。
『原くん』
一条先輩が鉈を振り下ろす。
『私も大好きだよ』
ゴシャッ。
そうして私の人生は幕を閉じた。
「な~ん~で~俺が命懸けで守ったのにお前もここにいるわけ??」
無事に死んだ私達はたぶん幽霊になってあの世への道を歩いていた。
「えへへ~」
「笑い事じゃねぇぞ。ったく」
原くんは呆れている。そんな彼に私は言う。
「ねえねえ、もう殺伐としたとこにいなくていいからさ、あの世で恋人になろうよ」
「!?!? はぁ!?」
あわてふためく原くんに私は追い討ちをかける。
「私も原くんのことが好きだからさ」
「……俺は一条先輩みたいな王子様キャラじゃねーぞ」
私はにっと笑った。
「原くんだから好きなの」
「……そうかよ」
ぶっきらぼうに言ってるけど、顔赤いよ。
「さーて、天国で恋人ライフを満喫しますかー」
私は拳を上げる。
「なんで天国行けるって余裕なんだよ。普通に地獄じゃね?」
「それはほら、ウイルスのせいだからさ。神様もわかってくれるよ」
「前向きかよ」
「恋する乙女はポジティブなんだよ」
私は原くんの手を取った。原くんは恥ずかしがりながら握り返してくれた。
こうして私達のゾンビライフは終わった。一つわかったこと。こんな素敵な恋ができるなら、ゾンビになるのも悪くない。
みんな! 生存者側になれなかったからって落ち込むことはないぞ!
じゃあ、私達はこの辺で退散するね。世界の命運は空の上からイチャイチャして見守ってるよ。
じゃあね。




