表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
PR

作者: yume
掲載日:2026/07/23

「今日は好きな部屋で寝なさい。」


古びた屋敷だった。


兄は二階へ、弟は廊下の奥へ。

互いに「おやすみ」とだけ言い、それぞれ別の部屋へ入る。


眠りについた。



目を覚ますと、水の匂いがした。


そこは巨大な屋内プールだった。


周囲には何十人もの人が立ち尽くしている。


皆、状況が分からないらしい。

困惑した顔で辺りを見回していた。


だが、中央だけが異様だった。


プールの真ん中に、人が一列に並んでいる。


長い列。


先頭は見えない。


いや──見えているはずなのに、認識できない。


視線を向けるたびに脳が滑り、何も思い出せない。


「……なんだ、あれ。」


誰かが呟いた。


誰も答えない。


列の人々は無言だった。


ただ静かに、水に浸かりながら前だけを見ている。


その時だった。


「パパ!」


少女が笑顔でプールへ飛び込んだ。


水しぶきが上がる。


父親らしき男が顔色を変えた。


「待て!」


迷いなく飛び込む。


その瞬間、周囲からため息が漏れた。


「あぁ……」


「あれは罠だ。」


「終わった。」


男は少女へ手を伸ばす。


だが少女は振り向きもしない。


まるで見えない何かに引かれるように、列の最後尾へ歩いていく。


最後尾の男が少女の手を握った。


その瞬間。


少女は列へ。


そして、少女へ触れていた父親の手にも、その男の手が触れた。


男の表情が消える。


ゆっくりと列の最後尾へ歩き始めた。


誰も助けようとしない。


助けられないことを知っているからだ。


私は震えた。


「夢だ。」


そうだ。


夢なら起きられる。


目を閉じる。


何度も。


何度も。


何度も。



ガタン。


机が揺れた。


教室だった。


朝の日差し。


生徒たち。


先生。


「……助かった。」


胸を撫で下ろした、その時。


教室中でスマートフォンが鳴り始めた。


ピロン。


ピロン。


ピロン。


全員の画面が同じ動画を映していた。


プール。


あの列。


「やめろ!」


私は叫び、教室を飛び出そうとした。


その瞬間。


画面の向こうから声が流れた。


言葉。


意味が分からない。


それなのに理解できてしまう。


耳から。


目から。


脳へ。


大量の言葉が流れ込む。


頭蓋骨の内側を誰かが掻き回している。


「うぁ……!」


耳を塞ぐ。


聞くな。


聞くな。


聞くな。


窓を開けて逃げる。


手を伸ばす。


ガラスに自分の顔が映る。


その奥。


反射したスマホの画面。


見てしまった。


一瞬だけ。


それだけで十分だった。


呪いの言葉が脳内を埋め尽くす。


知らないはずの記憶。


知らない名前。


知らない祈り。


知らない使命。


「列に並べ。」


誰の声だったのか。


もう分からない。



目を覚ました。


水の匂い。


私は安堵した。


「ああ……よかった。」


ここはプールだ。


列はまだ動いている。


急がないと。


置いていかれる。


私は笑って、水の中へ足を踏み入れた。


そして誰にも呼ばれないまま、静かに最後尾へ並んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ