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第9話 あいべや

トールの背中側に、ぽっかりと袋状の空間が生まれていた。

袋となったマントの内側は暗く、そして暖かそう。


雪乃と視線が合う。

「入る?...よね?...」小声で雪乃が

俺に判断を委ねるのかぁ...


しかし、「入るしか...」他に選択肢があるか?


毛皮の匂い...獣臭。

足を踏み入れようかとためらっていると...


「失礼します...」トールにぺこりと頭を下げ、雪乃が先に入った

言い出しっぺの責任感からか...

恐る恐る、非常に慎重な動作で、まず左脚を持ち上げて...

あ、スカート、危ない...

俺は申し訳なさで反射的に視線を逸らした。


袋になったトールのマントの中に雪乃が収まった。

俺も続く。

入り込んで中に体を沈める。

思ったより狭い。二人が入ったらマントの壁が周囲から押し迫って来た。

硬い足場は無いし、バランスを崩して雪乃とくっついてしまった。

「近っ...」思わず声が出てしまった

「っ!言わないで...」雪乃が小声で叫ぶ

気まずい空気。


マントが閉じられる。

中が暗くなる。

外界の気配が遠のく。

トールが立ち上がった。


マントの内側は、思っていたより暖かかった。

外があれだけ白く、あれだけ寒々しい世界だというのに、

ここだけ空気がこもっている。


獣皮の匂い。乾いた毛皮。微かに焦げたような匂い。

暗い。かなり暗い。

外の光はほとんど入って来ない。

かろうじて、閉じた出入り口から少しだけ光が。


トールが歩くたびに、世界が上下左右に前後に揺れる。

「く!!」

雪乃の体がぶつかる。

避けようと身体を引く。しかし無理だった。

逃げ場が無い。全周囲から包み込むマントの壁!

「狭っ...」また思わずつぶやいてしまった。

非難ではない。ただの事実。


揺れる。近い。雪乃が近過ぎる。

雪乃の髪が俺の顔にかかる。

肩と肩がぶつかり、ちょっと痛い。

「...ごめん」すぐ横から雪乃の声

「ううん...大丈夫」雪乃が謝ることないし

しかし、完全に落ち着かない空気。


腕と腕とが強く密着する。痛いほど。

腰や脚も...

離そうとしてもまた当たる。

心がいたい...


雪乃が妙に静かになっていた。気配で感じる。

かなり気をつかっている。

体を硬く縮めて動かないようにしている。


だが...

それが、むしろ存在感を強調し、雪乃の体をものすごく意識してしまう。

いつまで続くんだこれ...


時間感覚が曖昧になる。

どれくらい運ばれているのか分からない。

揺れだけが続く。

一定ではない揺れ。常に気を使う。


「ねえ...」雪乃の声

とても遠慮がち。

「うん?...」

「脚...」

妙な言い方だ。


「え?」

「ちょっと...」

言葉が途切れる。

暗がりでも分かる。ためらっている気配。


「あ...」そうか...「痺れた?」


一瞬の沈黙。

そして小さく気配。

「うん...」


だよね。

この姿勢ずっとはキツい。無理だよ。


狭い。動けない。姿勢固定。曲げたままの膝...

これは絶対、体に良くない。


「どうしよう...」雪乃の切実なつぶやき


どうしようと言われても、こっちも限界に近い。

脚の置き場問題が深刻過ぎる。


しばし悩む。そして...

覚悟を決めた。

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