第7話 お前ら遅い
焦茶色の獣皮マント。背中が壮大に大きい。
分厚い毛皮が雪原の白と妙に馴染んでいる。
一歩ごとに、巨体がゆったりと揺れる。
デカい。
改めて思う。何なんだこの存在。
人間ではない。
それだけは確信できた。
しかし、足音は重いはずなのに妙に響かない。
雪を踏みしめているのに音が薄い。
よくわからないが何か変だ。
横を見る。
雪乃も歩いている。
当たり前だが雪乃には現実感がある。
この世界で、彼女の制服姿だけがやけに浮いて見えた。
ここはいったい...
話すべきか迷う。
何を話せばいいのかもわからない。
そもそもこの状況で会話してもまだ何もわからないだろう。
デッかいトールのやや斜め後方をヒョロ長いロキが音も無く歩いている。
歩く?...滑っているようにも見える。
足運びが不自然に軽い。
雪を踏んで一歩一歩踏み締めている感じが無い。
歩き方からして気味の悪いやつ。
「どうした」不意にトールの声
振り向いていないのに、俺の気持ちを感じとっているのか?
なんでだよ?
しかし、
「え?」と、またも間の抜けた返事をしてしまった
「お前ら歩みが遅い」トールのぶっきらぼうな大音声
だが、責める響きではない。
事実だし、責められてもしょうがないところだけど...
「いや...」遅いというか、そもそも歩いている感覚が頼りない。
地面が妙に軽い。踏みしめている実感が薄い。
自分の歩く姿も、はたから見たら奇妙なのかもしれない。ロキの歩きのように。
「なんか...」思わずつぶやいた「変じゃない?この雪」
雪乃がぴくりと反応し、そしてうなずく。
「うん...」微かな声で同意
だが、その声色は...考えている時の彼女の響きだ。
「沈み方が...」ぽつりと雪乃が言う
「え?」
「一定じゃない」雪乃は歩き、視線を落としたまま、淡々と続ける
「踏んでる感触はあるのに、重さの返りが妙に曖昧...」
確かにそうだ。
地面が存在しているのかどうかすら曖昧な感触。
「よく気付いたな」前方からトールの声。妙に感心した響き
雪乃が少しだけ視線を上げる。
だがトールは何も答えない。
ロキが小さく笑った。
「この娘は面白いな」
ゾクリとした。褒め言葉なのに...妙に落ち着かない。
「観察するな」トールが即座に言う
「していないさ」ロキは飄々と返す「評価しているだけだ」
評価って何だよ。嫌な言い回しだな。
雪原は相変わらず果てが見えない。距離感が信用できない。
進んでいるのかすら怪しい。
その時...
トールが突然立ち止まった「む...」
巨大な背中が止まる。
「どうしたんですか」恐る恐る聞く
「面倒だ」
トールが振り向く。怖い!
豪快な髭面のイケメンが不機嫌な顔をしてる!
「お前たち」
ずい、と腕を伸ばす。
っえ!?何?
嫌な予感。
「お前たちは歩くのが本当に遅い」
いや、それ、あんたの歩幅基準だろ。
「運ぶ」
「運ぶ?」え、なに?
「え??」雪乃の気配が固まる
トールがしゃがんだ。雪原が沈む。
太くて大きな両手が俺の脇をガシッと捉え、体を持ち持ち上げる。
軽々と。
巨大な肩が目の前に迫る。
「乗れ」問答無用の大音声




