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第5話 ロキ

雪原に静寂が戻った。


だが、何かが変わった気がした。

風は無い。音も無い。


視界が微かにゆがむような感覚。

雪原と空の境界が曖昧に揺らぐ。

気のせいかと思えば、そうとも言い切れない。


言葉を失ったまま、雪乃を見る。

彼女も異変に気付いたらしい。

視線が落ち着かない。


「どうした?ついて来い」

大男がガラガラとした太い声で再び言った。



その時、背後から声がした。

「相変わらず騒がしいな」低い静かな声

大男の声音とは正反対の質感。

妙に落ち着いている。

と言うより、人間味が無い。


反射的に振り向く。

男が立っていた。


いつからそこにいたのか全くわからない。

足音は聞こえなかった。気配も感じなかった。


ただ...

気付いたら、いた。


長い...

最初に浮かんだ感想がそれだった。

背が高い。異様に高い、そして猫背。

だが細い。不自然なほど細身。

雪原の中に立つ姿は、大男とは別な異質さだった。


黒く長い髪に、黒い長衣。

顔立ちは整っている。異様なほど整っている。

だが表情が暗い。

笑っているようにも見えるが、どこか底知れない冷たさが漂っていた。


「なんだ貴様」大男が即座に言い放つ

相変わらず声量が規格外だ。鼓膜がビリビリ震える。


細身の男が肩をすくめた。わずかに。

ほんのわずかにだが、妙に芝居がかった動きだった。

「随分な言い草だな」


声音は穏やかだった。だが何かがおかしい。

抑揚が薄い。

信用できない相手だと本能的に感じた。


「連れが増えたようだから見に来ただけだ」

細身の猫背の男の視線がこちらへ向く。


ゾワっとする。

理由はわからない。

視線なのに、触れられたような嫌な感覚。


雪乃の指がぴくりと震える。

彼女の表情が明らかに強張っていた。さっきとは別種の緊張。

雪乃は無言だった。だが細身の男から視線を逸らしている。

ゴツい大男の時とは違う。

明確に距離を取りたい気配。


細身の男がわずかに笑った。口元だけ。

目は笑っていない。

「怯えられているな」他人事のような口調


「当然だろう」思わず口をついて出た。自分でも驚く

なぜ反応してしまったのか。


男の視線が再びこちらへ向く。空気が冷えた気がした。

ヒリヒリと冷たい空気が心に刺さる。


「ほう」その気味の悪い男にわずかな興味の色

だが人を試すような響き。

「面白い反応をする人間だ」


なんだこいつ。

言い方が妙に癇に障る。


大男が豪快に鼻を鳴らした。

「ロキ」短く名を呼ぶ


ロキ。

それがこの男の名らしい。

「無駄にちょっかいを出すな」威圧的な大音声

だが怒っているわけではなく、面倒臭そうな気の抜けた表情。


ロキと呼ばれた異様に細くて背の高い男は軽く首を傾げた。

「ちょっかいとは失礼だな。観察だよ」


観察。

その言葉に、なぜか妙な不安を感じた。


ロキの視線が再び雪乃へ向く。ほんの一瞬。

それだけなのに...

彼女の肩がわずかに強張ったのがわかった。


なんだ?この空気。さっきとは違う。

ゴツい大男の圧とは違う。だが落ち着かない。

妙に神経を逆撫でされる感覚。


対照的に。

ゴツい大男の存在にはなぜか安心感が伴っていた。

声はうるさい。態度は横柄。

だがわかりやすく、悪意を感じない


ロキがふっと笑う。

「なるほどな」


意味ありげなつぶやき。

何が「なるほど」なのかはわからない


そして、雪原の空気が再びわずかに揺らぎ始めていた。

何も理解できないまま、時は進んで行く。

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