第4話 雷の大男
衝撃波の後、顔を上げてみると...
倒れた巨人の上に人影。
巨人よりは遥かに小さい。
だが、明らかにデカい。
巨人の身体の上に立っているその男は堂々たる存在感を放っていた。
2.5メートルはあるかな?いや、もっとあるかもしれない。
デカ過ぎる。人間のサイズではない。
倒れた巨人と比べれば人間サイズ。
だが、あんなデカい人間が普通に存在するとは思えない。
髭もじゃ。しかし良く整った顔立ち。
分厚い筋肉。広過ぎる肩幅。異様に太い腕。
その巨体を包んでいるのは、焦茶色の重厚な獣皮マント。
マントが肩幅をさらに誇張している。
胸元には鈍い鉄色の胸甲。
革帯で無造作に固定された胸甲には装飾はほとんど無い。
だが、その無骨さが逆に異様な威圧感を生んでいた。
剥き出しの腕には分厚い革の腕当て。
足には重々しいブーツ。
雪原の中に立つ姿は、まるでそこだけ重力が濃くなったみたいな圧迫感を放っていた。
言葉が出ない。俺は完全に固まっていた。
彼女も動かない。
視線だけが、その大男へ釘付けになっている。
大男がゆっくりとこちらを見下ろした。
視線。
それだけで空気が変わった気がした。
重い。妙に重い。
目に見えない圧力のようなものが胸にのしかかる。
「おい」轟音
腹の底に直接叩き込まれたみたいな声だ。
思わず肩が跳ねた。
「何を呆けておる」またも大音声
完全に威圧である。
なのに...
どこかのどかな雰囲気が漂う。
大男が巨人の頭部を軽く蹴った。
軽く、のはずなのに、
巨人の首が、嫌な音と共に不自然な角度に曲がった。
「巨人は鈍い」大男の声はさっきと同様に太く重い
だが今度は機嫌が悪そうだった。
横を見ると、彼女の顔色が明らかに青ざめていた。
唇がわずかに強張っている。
目だけが大きく見開かれていた。
うん、怖いよ...こんな状況、普通無いよ。
大男が雪原を踏みしめる。
重い足音。一歩ごとに空気が揺れる。
踏みしめた足が雪が沈む。
深過ぎるくらい沈む。
どこか不自然な感じがする。雪原が変なのか?
大男があっという間に目の前まで来た。
距離感が信用できない。さっきまで遠くにいたはずなのに。
接近してきた巨人と同じ現象。
「小さいな」大男が言った
最初の声かけがそれかよ。
「最近の人間は皆その程度か?」真顔だ
最近って?
何と比べているのかわからない。
雪乃が怯えている。
完全に気圧されている。
教室ではほとんど感情を表に出さない彼女が、明確に狼狽していた。
大男が腕を組む。筋肉が動く。
服の上からでもわかる分厚い筋肉。
「立て」命令形。反論の余地無し
「え...?」間の抜けた声が出てしまった
「いつまで座っておる」
「いや...座ってるつもりは...」
言いかけて、自分が大男の圧に気押されて雪に膝をついていることに気付いた。
いつの間に。
大男が豪快に鼻を鳴らした。
「弱いな」
ダメな奴の烙印を押されてしまった。
だがこの大男、嫌な感じがなぜかしない。
雪乃がそっと立ち上がる。
動きがぎこちない。
明らかに警戒している。
大型犬の前に放り出された小動物みたいな大男と雪乃の対比。
大男の視線が彼女へ向いた。
空気が変わる。ほんのわずかに。
だが確かに変化した。
「...む」
なぜか少しだけ声の調子が変わった。
気のせいか?
「そちらは...」大男が一瞬言葉を切る。
妙な間。
「まあよい」
何がだよ。
そして、大男は豪快な調子で言い放った。
「ついて来い」
圧倒的な命令口調。
だがどこか雑で、優しさを感じる。
そして圧倒的なほど堂々としていた。
雪原の静寂が戻る。
しかし、俺は状況が解らぬままだった。




