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第28話 湯の気配

炉の火が安定しているせいか、室内の空気はやわらかかった。


鍋の匂いの奥に、別の温度が混じっていることに気がついた。

湿り気を含んだ空気。

鼻の奥に触れる、ほんのりとした温かさ。

パシャッと水音。

これは...

視線を奥へ向ける。

炉の部屋の隅に、板で囲われた小さな仕切りがある。


その上から、薄く湯気が立ち上っていた。

湯だ。

木と湯の匂いが混じる。

またパシャッパシャッと水音。

水音が止むと布の擦れる音がしばらく続いた。

そして...

次の瞬間、仕切りの中で少女が立ち上がった。

仕切りの高さは少女の胸の下ほど。

それまでは座っていて、仕切りで見えなかったのだろう

シャールヴィと同じ淡い色の髪が肩に落ちている。

簡素なワンピースのような薄手の服。えらく薄着だ。

湯上がりなのだろう、顔や胸元が火照ってツヤツヤ輝いている。


目は青に近い色。

迷いのない視線がまっすぐこちらを見る。

顔立ちはシャールヴィとよく似ている。

整った輪郭。

細く少し高い鼻筋。

派手な顔立ちではないが可愛らしい。


「誰?」短い問い。声は軽い。

「客だ」シャールヴィが答えた。


少女が歩いて来て、いきなり目の前に立った。

そして、シャールヴィと同じ反応。制服の袖を指先でつまんで凝視。

「変な布...」

感触を確かめるように指が動く。

布の質などを吟味しているようだ。

「あんた、ほんとに人間?」

「たぶん」変な答えになってしまった

少女の目が少し細くなる。笑っているのかどうかは分からない。


「妹のレスクヴァだ」シャールヴィが言う


レスクヴァは雪乃へ視線を移す。

じっと見る。

雪乃がわずかに身構える。

レスクヴァは首を傾げ、不思議そうな顔をした。

「あんた、綺麗ね。変わってるわ。髪も瞳も黒い。子供?顔が子供みたい。私と同じくらいの背なのに」

褒めているのか貶しているのか判らない。


囲いの向こうでは、仕切りにかけられた布から湯気がゆっくり上がっている。

湯はまだ残っているらしい。

湿った空気が頬に触れる。

雪乃が湯気ばかり見ている。


「湯があるぞ。体洗うか?」シャールヴィが言う

当たり前のような調子。


トールは椅子に座ったまま腕を組んでいる。

ロキは火を見つめて立っている。...と言うか、いつの間に現れたんだ!?


風呂がやはり気になる。

雪乃と視線が合う。ほんの一瞬。言葉は無い。

だが、同じことを考えているのは分かる。

この世界で、お湯、それはかなり大きな出来事だ。

おまけに黒い大地の岩風呂から丸二日以上経つ。

俺は入れなかったし。

そして、土埃まみれのマントの中に閉じ込められる毎日。


囲いの上に立ち昇る湯気。

そして、俺と雪乃は、横目で視線を交わしてうなずき合った。

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