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第25話 雪の中の家

ヤギの鼻息が遠のいた後も、重たい足音や雪を蹴る音がしばらく耳の奥に残っていた。


時々、角が何かに当たったような乾いた音。

ヤギ達がそこら辺を一緒に進んでいる音。

トールはまた歩き出していた。


袋の中に戻ると、毛皮の匂いがすぐ鼻に来る。さっきはそれが落ち着く匂いだったのに、今は少しだけ獣っぽく感じる。ヤギを見たせいだと思う。


「すごいね、ヤギ」雪乃が近い。声が弾んでる

「うん、すごいね。タングリスニとタングニョーストだって」俺も気分が弾む

ほんと、ヤギ、デカ過ぎ。

「長い名前ね」雪乃が眉を下げて微笑んだ

ほんと憶えるの大変。スマホもメモ帳もシャーペンも無いし...



道中、お腹が空いたと思った時にドラゴンが森の木立から現れた。

ドラゴンと言ってもかなり地味。

ワニみたいな体型で大きさもそんなもん。思ったほど大きくない。

背中にコウモリみたいな翼が生えているが、飛ぶわけではなく地べたを這って突撃して来た。

自分だけだったら恐怖で立ちすくみ喰われていただろう。

しかしトールの槌と雷の一撃で食材に変わった。

鶏肉みたいな味。雪乃は最初は警戒していたが味は好みのようだ。

「足りぬ」とトールが言った



雪原の冷えは変わらない。

袋の中の空気は温かいけど、隙間風は冷たい。

袋の外では、トールが変わらず平然と歩いている。こんな厳しい環境でも、たぶん日常の範囲なんだろう。

自分がどう感じようと、こことトールたちは違うんだろうなぁ...


雪乃の呼吸がすぐそばにある。

揺れに合わせて、肩が軽く触れる。

以前ほどは慌てないように気をつけているつもりでも、狭いからどうしても当たる。

「ごめん」小声で言うと

「ううん」雪乃も小さく返す

それだけで、少し落ち着く。


袋の口から顔を出す。

雪原は続いている。

まばらな林。背の低い木。枝に雪が乗っている。

風が横に流れて、枝先の粉雪がさらさら落ちる。


その風の中に、匂いが混じった。

焦げた匂い。木が燃える匂い。

鼻の奥に、温度のある匂いが入ってくる。


「あれ...」思わず小声で叫んだ。

雪乃も顔を上げる「匂いがするね」

そう、この匂いは...


トールの足取りが変わらないまま、林の間を抜ける。

少し進むと、雪の向こうに影が見えた。

低い形。

まっすぐな線。自然物ではないシルエット。

近づくにつれて、それが家だと分かる。

丈の高い平屋、横に長い。

木で組まれた壁。屋根には雪が厚く積もっている。

屋根に幾つか穴が空いていて、そこから細い煙が立ち上り、風に流されて行く。


家のまわりは静かだ。でも、死んだ静けさとは違う感じ。

薪が積んである。扉の前に踏み跡がある。

雪が押し固められて、道になっている。

人が暮らしている痕跡だ。


袋の揺れが止まった。

トールが立ち止まった。

「降りるぞ」低い声


袋の口が開き、冷気が一気に入って来る。

外に出ると、寒さが頬に貼りつく。

足の裏に雪の柔らかさ。キュッキュと鳴る。


皆で家の前に立つ。

目の前の扉は厚い板で、金具がついている。

触ったら冷たそうだ。


その時、扉が内側から開いた。

ギギ...と木が鳴る。

暖かい空気が外へ流れ出て、頬に当たる。

匂いが濃くなる。火の匂い。煮えた匂い。

腹が正直に反応する。


「誰だ?」少年の声!

扉の向こうに立っていた。

俺たちと同じくらいの年齢。

淡い色の髪。細身で、目がよく動く。

ヒョロッと立っている。

視線はまっすぐ、ためらいが無い。


「泊まるぞ」トールが一言

少年は一瞬、肩をすくめ「ふーん」と鼻を鳴らした

投げやりな態度だが、扉は閉めない。

むしろさらに開けて、こちらを見ている。


暖かい空気が流れ続ける。

俺は雪乃を見る。

雪乃も俺を見る。

言葉は出ない。

でも、たぶん同じ事を思っている。

寒い。そして、中は暖かい...


少年が顎で中を示した。

「入れよ」


広い雪原中の家。

一軒家だけど、人が居て生活がある。


見知らぬ荒野を進み野宿の毎日だったから、とても心強かった。

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