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第24話 ヤギ

揺れが、ふっと止まった。


いや、正確には止まったように感じただけで、

上下動の質がわずかに変わった。

袋の底で身体が沈む。

「あれ...?」

さっきまで続いていた規則的な浮遊感が無い。


代わりに重さ。一歩一歩、沈み込む重さ。

トールの歩調が変わったのだと気付く。

袋の外は風の音。

それに混じって、違う音が聞こえた。

低く、短い。雪を裂くような、硬い擦過音。

ひっかくような。削るような。


「なんだ?」

膝で立って袋の口へと伸び上がってみる。

足場が安定しない。少し無理な体勢で顔を出す。


寒い。白い。

黒いしっかりとした大地の世界が終わり、また雪原になっていた。

雪原にはまばらな林もある。


そして...

「...え?」

大きな木の下に、二つの大きな生き物がいた。

角で木の皮をガシガシ削り、

噛みついてバリバリ引っ張ってはがし、木の皮を食べている。

「ヤギ?」

大きい。馬よりも大きい。

ヤギはもっと小さいんじゃなかったけ?


そしてこちらを向いて...

2頭のヤギが雪煙を巻き上げ突進してくる!

大きい。やはり異常に大きい。


「ヤギ!ヤギ!こっち来ます!」怖くて叫んだ


「知っている」落ち着いた声

トールは微動だにしない。


ん...? 知っているって?


目の前に迫る白い塊。

「うわっ!」反射的に袋の中に引っ込む。

「ヤギ?」雪乃が問う

「うん、ヤバイ、デカい」


袋の外から重い足音。

どすんどすんどすん。

そして、荒い鼻息。


袋の縁から恐る恐る顔を出してみる。

「うわ!」

すぐ近くにいた。

雪の中に立つ巨大な二頭のヤギ。

白く長い毛並み。優美な角の曲線。黄金色の瞳。黒い瞳孔が横長だ!

ヤギでもこんだけデカいと迫力があり過ぎて怖い。


「今頃現れたか」トールがぼそりとつぶやいた

「え?知り合い?」

「タングリスニとタングニョーストだ。どこかに消えていた」淡々としたトールの返答


消えていたって?

と言うか難しい名前だ...


ヤギの一頭がこちらを見た。

デッカイ顔。

次の瞬間...

「ベェェ」鳴いた。やはりヤギだった。

「普通に鳴くんだ...」恐怖が薄れ、変なところに感心してしまう


ヤギは雪をかき、鼻先を震わせている。

せわしなく動く二つの巨体。

トールが平然と大きな手でヤギの顎をなでる。

ヤギが素直に顔を寄せる。


「本当に知り合いなんだ...」

「いつの間にか消えていた」トールが少し嬉しそうだ

そして

「この世界の気まぐれだ」

気まぐれで済ませるのか...


巨大なヤギ。動じないトール。

この世界では、それが自然なのだろうか。

袋の中へ戻る。

雪乃と視線が合う。

「ヤギ?」雪乃の声がなんだか弾んでる

雪乃は動物が好きなのかな。目がキラキラと好奇心で輝いてる

「うん、デッカいヤギ」

なんか、うれしいな。


外では、ヤギの鼻息と重たく飛び跳ねる足音がにぎやかだ。

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