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第22話 旅は快適に

揺れが少し深くなる。


袋の底で身体が浮き、落ちる直前で受け止められる感覚。

その"間"が、自分の感覚よりも、どうもわずかに長くて勘が狂う。

「っ!...」

バランスが崩れ膝が滑る。

次の揺れで、今度は身体が横へ流される。

避けきれない。


胸元を雪乃の肩にぶつけて、のしかかるような体勢になってしまった。

「あ...」雪乃が微かにうめく。


反射的に身体を引こうとするが狭い。

袋の中では腕も脚も自由にならずバランスも保てない。


抗おうと姿勢を変えようとすると余計に雪乃の体に触れてしまう。

「ご、ごめん...揺れで...」

謝る声が自然と小さくなる。

雪乃の顔がすぐ目の前。

暗くてもはっきり分かる距離。


「わかってる...」落ち着いた返事。

責める響きは無い。


そして揺れは続く。

上下動に合わせてバランスが崩れる。

互いに袋の中心に押しやられ、密着する形になる。

膝は袋の底。

雪乃の脚とぶつかり、逃げ場が無い。

肩口。

腕。

押し付け合う状態のまま離れられない。


「一条くん」声、すぐ近く

「少し、そのままで」耳元。雪乃の息がかかる

「え...?」意味を測りかねる

だが次の揺れが来る。

無理に身体を離そうとして、

また戻されて、却ってぶつかり合ってしまう。

今度は脚同士が絡み合ってしまった。

布地が擦れ合う。

さらに苦しい体勢で密着する。

「っ...」

「ほら...」雪乃が静かに言う「動くと、ぶつかる」

その通りだった。

「...ごめん」

「力を抜いてもたれかかってみて...」雪乃が提案する

思い切って、そして、そっと身体を預ける。

雪乃も体をもたれかけてきた。

そして、揺れに逆らわない。


すると、ぶつかり合う痛みも圧も無くなり楽になった。

上下の動きに合わせて、左右の動きに合わせて、

互いに身を寄せ合い、自然に揺れに任せていく。

「こうやって、揺れに合わせた方が楽だね」雪乃が静かにささやいた。


さらに試す。呼吸を整える。

揺れの周期へ身体を委ねる。

「ほんとだ」

雪乃の息が柔らかくなり

「うん」と、短く応じる。


「そう...だね...ほんとだ、白崎さん」

自分の声がぎこちない。やはり近過ぎるのだ。


だが、さっきまでのどうしようもなく混乱していた気持ちはだいぶ静まった。


不意に視線を感じる。薄暗くて、ほとんど見えないけれど。

それでも判る。

「...あの」なんて言おうか....

「なに?」雪乃の吐息

「今の、提案...その...ありがとう」言いながら照れくさい

ほんのわずかな間。

「どういたしまして...」雪乃の声、少し温かい


揺れが続く。

身体がまた上下する。

自然な形で寄り添い合う。

さっきより少しだけ、袋の中の空気が穏やかになっていた。

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