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第20話 お風呂

湯気。


見かけだけの白い湯気とは違う、柔らかな蒸気。

「あ...」

最初に気付いたのは雪乃だった。

水脈の奥の岩陰。わずかに窪んだ場所。

そでは、はっきりとモクモクと湯気が立ち上っている。


「これ...」二人で覗き込む。

そして...

恐る恐る指先を水面につける。

「っ!」冷たくない

それどころか、

「温かい!」

泉だ。小さな湯だまり。

澄んだ水面。

絶えず立ち上る蒸気。

信じられない光景。

この世界の寒さの中で、場違いな存在。


「な、なんで...?」夢?幻?


だが雪乃は疑問より先に、別の感情に支配されていた。

泉。湯気...

そして...

「お風呂...」ぽつり

切実な響き。


そりゃそうだ。

ここへ来てからどれだけ時間が経ったのか分からない。

少なくとも丸一日どころではない。

雪と冷気と緊張しかない移動。

身体感覚的には、もう限界に近い。


「入りたい...」小さな声

だが、はっきりした意思。


そして、雪乃の顔が一気に赤くなった。

「あ...」

俺の存在を思い出したらしい。

雪乃が視線を逸らす。落ち着きなく指先をいじっている。

「あの...その...」

なんか挙動不審だ。

「入るから...入りたいから...」

そして、意を決したようにこちらを見る。

「の、覗かないでね...!」

!!えっ!?

「も、もちろん!!」

勢いが良過ぎた。自分でも驚くほど、即答してしまった。


雪乃が一瞬だけ目を丸くし、

それから少しだけ安堵したように頷いた。

「うん...」


そのまま岩陰の向こうへ小走りに消える。

あ、岩の向こうからちょっと顔を出した。

こっちを見た。そして周りも。

トールやロキなどの居場所なども確認してる感じだ。

そりゃ、野外で女の子が一人で素っ裸になるのはハードル高いよなぁ。

それをも乗り超えるのが、風呂!


布が擦れる音。

そして...

ぱしゃ・・・

小さな水音。


非常によろしくない妄想が湧き上がりそうになる。

いやいやいや...

違う違う違う。

そういう状況じゃない。

「落ち着け、俺...」

自分に言い聞かせる。


だが...

どうしても考えてしまう。

風呂。女子、しかも、すごく綺麗な子。

すぐ近く。

この状況。

やはり、脳が勝手に余計な想像を展開する。

うわあああ...

頭を抱えた。

見ない。

絶対見ない。

それは当然。


だが見えなくても妄想はしてしまう。

人間の精神構造とは実に面倒である。

考えないようにしても妄想が暴走する。。


気を紛らわせるように、どうでもよい方向を向く。

辺り一帯、点々と湯だまりがある。水脈が連なっているのだろう。

雪乃が入っている所から離れた湯だまりにも良い感じにモクモクと湧き出ている湯気...

あそこならきっと...

「俺も、入っとこ」


寒さより何より、衛生感覚的にぼちぼち無理だった。

元気な湯気に目星をつけて行ってみると。大きな岩の下に小さな湯だまりがあった。

温度は...指先を恐る恐るつけてみる...まぁイケる。

「よし」

誰の視界にも入らないのを確認。

服を脱ぐ...

その時。


ピシ...

微かな音。

「...?」

水面が変だ!

見る見るうちに水面が白く濁り...

「え!?え〜〜〜!」

パキ...

水面が凍結した!

一瞬に。


「はぁ!?」

慌てて飛び退く。

鋭い冷気が体を襲う。

泉は信じ難い速度で氷へ変貌した。

「なんだこれ...!」


大慌てで服をかき集め、袖に腕を通し、ボタンを引っ掛ける。

指がかじかみ、焦りで余計にもたつく。


その時、

「一条くん?」背後

振り向くと雪乃だった。


既に身繕いを終えている。

濡れた髪が生々しく光っている、

頬はほんのり赤い。

完全にさっぱりした顔。


「え...」状況を理解していない表情

「どうしたの...?」不思議そうな顔。なんか可愛い...

いやいやいや「それどころじゃ...」

言いかけて気付いた。

雪乃のいた泉の方向。

...あれ?湯気、モクモクと、ちゃんとある!

「は?」俺の方だけ、いきなり凍った。

他の場所からも湯気はわいている。


俺が入ろうとした場所だけ、完全に氷になった!


雪乃が小さく首を傾げる。

そして、俺の入ろうとした元湯だまりの氷を見る。

そして俺を見る。

「...え?」


それから、ふっと小さく吹き出した。

「なにそれ!」笑った

雪乃の笑い顔は嬉しいけど

「いや笑い事じゃないって!」


理不尽である。

非常に理不尽である。


だが、

その笑顔の破壊力が強過ぎて、

抗議する気がなくなった俺はヘラヘラと笑った。

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