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第16話 笑顔

パチ...と、骨の火床が小さく鳴る。


火は既に頼りない。

赤い舌が骨の隙間で揺れているだけだ。それでも熱は確かにあった。

冷えてきた頬にわずかな温もりが届く。

凍える白い世界の中で、この火の周囲だけが別の場所みたいだった。


匂いがある。音がある。温もりがある。


雪乃が両手を火へ差し出していた。指先が赤くなっている。

さっきまで肉を持っていたせいか、脂で指が光っていた。

「あったかい...」ぽつりと雪乃がつぶやく

少し安心のこもった響き。


「だね...」同意しながら自分も手をかざす。

しかし、火はかなり弱くなってしまい、指がかじかんでくる。

指を曲げると変な痛みが走る。

やっぱり寒い。

慣れる気がしない。


トールはというと、そんな寒さなど存在しないかのように雪原に寝転がっている。


「寒くないんですか?」思わず聞いてしまった

「寒いぞ」特にどうとも思っていないような口調

「え?」

「寒い」トールは表情を変えずに繰り返した

「だが、気にするほどではない」


え〜!? なにそれ?

「いや気にしますよ、普通...」反射的に突っ込んでしまう


トールがちらりとこちらを見る。

それから鼻を鳴らした。

「弱いな」無感動な調子で言い捨てる。


またそれかよ。


雪乃が小さく肩を震わせた。

笑っている。確実に笑っている。

さっきからよく笑うな。

教室では、ほんと笑わない人だったのに。


「一条くん」

「え?」

「慣れたね」笑ったと思ったら真面目な顔をしている

「何に」

「この人への対応」

 否定できない。

「いや、慣れたというか...」

ちらりとトールを見る。

「慣れないとやってられないというかさ...」


「聞こえておるぞ」トールの大音声。

「うわっ!?」びっくりした。心臓に悪い。

「いちいち驚くな」

「声量が...」

「声はこれが普通だ」


ロキがくく、と笑った。

いつの間にか火床の反対側に座っている。相変わらず現れ方が気持ち悪い。

「その男に人間基準は通用せんな」

愉快そうな声。


「ええ、あなたも...」思わず言ってしまう。

「ほう?」ロキの目が細くなり、口元がわずかに歪んでいる


しまった。この人に軽口は危険な気がする。

「例えば?」楽しんでいる声、絶対面倒な流れだ

「いえ、その...」言葉を探す

しかし、もうロキの会話の流れだ。逆らえない。

「歩き方とか...」

一瞬の沈黙。

「ふっ...」雪乃が吹き出した「確かに...」

肩を震わせながら言う。

何か笑いのツボにはまってしまったらしい


「ちょっと浮いてるみたいな歩き方...」思っていたこと口に出してしまった

ロキの眉がぴくりと動いた。

「滑らかと言え」不満そうな顔

いや、ニヤニヤと目が笑っている。


「あの...どうも地面に足を踏み下ろしている歩き方に見えないんです」

「いや、歩いている」

「普通の人の歩き方とはちょっと...」

「普通だ」

不毛な言い合いになってしまった。



トールが起き上がった。

「行くぞ」

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