第15話 焼肉食べ放題
「食え」命令形。
だが声色はどこか満足そうだった。
かぶりつく。
熱い。柔らかい。肉。とろける脂。
骨の周りにこびりついた旨味。
何者だかわからない巨大生物だったが、
味は驚くほどまともだった。
「普通に美味い...」思わず呟く
雪乃は小さく齧り、黙々と食べている。
そして、ほんの少しだけ...
ほんの少しだけ笑った。
この世界で初めて見る表情だった。
一瞬、見惚れてしまう。
白崎さん、そんな顔をするんだ。
教室では見たことが無い微笑みだった。
そんな微笑みなどはお構いなく、トールが豪快に肉の塊を掴み、
「食え」またも雑な命令。
差し出された巨大な肉塊。
「この量は...」
「食え」トールは情け容赦が無い
雪乃と顔を見合わせる。
どうするこれ。
俺は人に何か頼んだり頼まれたりするのが苦手だ。
争いを避けて言うなりに従ってしまう...
「半分こ...する?」雪乃が小声で
「そうしよっか」雪乃の提案、ありがたい!
巨大な肉を二人で抱えた。
重い。腕にズシリと来る。
そして、同時に齧った。
冷えた身体に、焼けた肉の熱と旨味が流れ込んでくる。
「あ...」思わず息が漏れた
雪乃の頬がほころんでいる。
「美味しい!」今度ははっきり言った
白い雪原の真ん中で、いつの間にか普通の食事みたいな空気が流れていた。
肉はまだ残っている。
焼けた脂の香ばしさ。焦げた骨の乾いた臭い。
しかし「もう無理」
腹が苦しい。制服のベルトがキツい。
あれだけの肉。食べ過ぎた。
隣では雪乃も小さく息を吐いていた。
「お腹いっぱい...」心底満足そうな声
トールはすでに七本目の骨を放り捨てていた。
噛み砕き、呑み込み、肉はあらかた消え失せた。
そして一言。
「足りぬ」低く、重い声
「えぇ!?」思わず声が出る
さっきまで巨獣だった残骸。今は骨の山。
「あんなゾウみたいに大きかったのに...」
どういう胃袋をしているんだ。
トールは腕を組んだまま、不満そうに鼻を鳴らす。
「脂と骨ばかりで肉が少ない」
「ふふ...」雪乃が笑った
珍しく、少しはっきりとした笑い方だった。
後ろから、くく、と喉を鳴らす気配。
ロキだった。
細い影が、いつの間にかすぐ近くに立っている。
「もういいだろう」ロキの口元には笑み
いつもの、あの底の見えない笑い。
「また何か寄って来るだろう」物騒な発言である。
「来て欲しくないんだけど...」
白い巨人は出たし、ここは見たことの無い巨獣までゴロゴロしてるのかよ。。
だがロキは楽しそうだった。
この状況を、どこか面白がっている節がある。
「よくある事だ。この世界ではな」
さらりと言いやがる。
「そして何もかもが変化する」
意味深だが、ロキの説明は無かった。




