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第13話 朝の寝顔と騒音と

目が覚めた瞬間、まず寒さがつらかった。

皮膚を刺す冷気。容赦なく体温を奪っていく。


顔の表面がひりつく。鼻の奥が痛い。

「ん...」まぶたを開ける


日は昇ったようだが、空は薄ぼんやりとしている。

白。どこまでも白い。

一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなる。

すぐに思い出した。


雪原。どこだかわからない場所...


「うぅ...」声が掠れた

身体が重い。妙にだるい。

マント越しとはいえ、でこぼこした雪原の上に無理な姿勢で寝ていてキツかった。


首元にフワフワした感触。

マフラー...

そうか...まだ巻かれている。

そして、


近い!

雪乃。すぐ横。

ほとんど顔が触れそうな距離で眠っていた。

白い吐息。静かな寝息。長い睫毛...

こんな状況なのに穏やかな寝顔。

ため息が出るほど綺麗な顔。

小さく丸まり、静かに眠っている。

マフラーがまだ二人の首元を繋いでいた。


昨夜の事が一気に蘇る。

寝返り。

締め上げられた首。

近過ぎる距離、一晩中。

優しい香り。

心臓に悪かった...


「ぐごっ!ががが・・・」トールのいびきの爆音

雪乃は起きない。

大したものだ。

この騒音の中でまだ熟睡してる。


雪乃の反対側の横では、トールが相変わらず大の字。

雪原のど真ん中で、巨大な男が無防備に転がっていた。


そして、また

「ぐごおおおおおおお……」

朝から絶好調だ。

空気が震える。

いびきというより地鳴りに近い。

容赦が無い。


「何なんだよこの人...」

生き物としての規模が違い過ぎる。

この巨体なら、これほどの音量を発するのも理屈としては正しい。

だが、勘弁して欲しい。


少し身じろぐ。

脚が...痛い。

「いてて...」

じんわりと痺れが残っている。

冷えた筋肉がヒリヒリと痛む。


それでも、凍え死ぬ感じはない。

この感覚も未だに慣れない。


寒いのに。厳しいのに。限界ではない。

妙な世界だ。

「どこなんだ、ここは...」常識とは何かが違う


視界の端で影が揺れた。

「起きたか」ロキだった

相変わらず音も気配も薄い。


少し離れた場所に立っている。

立っているというか...そこに在る、に近い。

黒い長衣。細い猫背の身体。

雪原の中に黒っぽい独特のシルエット。


「おは、よう...ございま、す」喉がかすれて声がよく出ない

自分でも情けない挨拶だと思う

ロキが小さく笑った。「人間は朝が弱いな」


「そりゃ、まあ...」

否定はできない。というより環境が悪過ぎる。

マントで守られていたとはいえ、吹きっさらしの雪原に直寝で、爽快に目覚めろという方が無理だ。


再びトールを見る。巨大な腹が上下している。

完全熟睡。

「起きないんですか...あの人」いつまでも寝ていたら俺たちはどうなる?

急激に心配が湧き上がって来た。


「まだ起きないな」ロキがさらりと答えた

妙な説得力がある。それは困る...


その時。

ドン!

地面が揺れた。


「っ!?」

トールの巨大な腕。

寝たまま振り上げた腕が雪原に豪快に落ちたのだ。

「怖...」

はた迷惑な寝相だ。

あんなのに巻き込まれたら即終了だろう。


ロキは平然としていた。「気にするな」

気にするだろ普通。



「ん...」

雪乃がわずかに動いた。

まぶたが震え、ゆっくり開く。

まだ眠気の残る目。


そして...

数秒の停止。


状況を思い出してるのかな?


「寒...」

第一声がそれだった。

寒いよなぁ。


俺は咳払いをして喉を整えてから、

「おはよう」と声をかけた。できるだけ自然に

女子に話しかけるのには相変わらず抵抗がある。

おまけにこの距離で一晩一緒にいたし。

バツが悪い。恥ずかしい...


雪乃が小さく頷いた。

「おは...よう...」

声がまだ寝ぼけている。

そして、雪乃の頬が少し赤くなったように見えた。


昨夜とは違う静かな朝の空気。

少しだけ柔らかい。

居心地の良さ...そして照れ臭い...


だが、

「ぐごおおおおおおおおお!!」

全部台無しのトールの爆音。


雪乃がびくっと肩を跳ねさせた。

「な、何...?」


「あのデッカい人...」説明不要だった


視線の先。

相変わらず大の字で世界を揺らしている。


雪乃はしばらく黙り、ぽつりと呟いた。

「たぶん、人間じゃないよね、この人...」


思わず吹き出しそうになる。

「うん」


完全に同意だった。

たぶん、人間じゃない。それだけは間違いない。


朝の雪原。

静寂とは程遠い。

眠れる巨大な男だけが元気だった。

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