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第12話 マフラー

眠れない。


目を閉じても意識が落ちない。

寒さのせいではない。

トールのいびきのせいでもない。


いや、半分くらいは確実にいびきのせいだが。

「ぐごおおおおお」雪原に轟く重低音

空気がビリビリ震える。

規則的なのか不規則なのかよく分からない音の波。

リズム感が悪い。たぶん音痴なんだろう、この大男は。

たまに止まり...

「・・ごご・・・ごっ!!」再び爆発する


この生き物、怪物だよ。


トールの反対側、左隣。

雪乃は眠っている。

完全に眠っている。

信じられない神経だ。この騒音の中で。

雪乃の呼吸は穏やかだ。

小さく、静かで、規則正しい。


マフラーの柔らかな肌触り。

暖かい。

そして近い。

距離が近過ぎる。


布の擦れる気配。

雪乃が寝返りをうつ。

「っ...」

不意に圧。「え?」

首元が引かれる。締まる。

「っ!!?」呼吸ができない!

「ぐ...っ...!?」


マフラー。

雪乃の寝返りで引き絞られていた。

「ぐょ...っ...」声にならない

苦しい。

本気で苦しい。

視界の端。

雪乃。ぐっすり眠っている。

完全無意識。


「し、白崎さん...!」


必死にマフラーをつかむ。

緩めようともがく。

「ぐ...っ...」


ようやく緩む。

肺に空気が流れ込んだ。

「はぁ...っ...」

心臓が暴れている。死ぬかと思った。

でも、雪乃が悪いわけじゃない。事故、ただの事故。



明け方。

覆い被せたマントの端から薄明かりが入り込む。


あれ...?

様子がおかしい。

雪乃の呼吸。浅く、速い。

苦しそうだ。

眉が寄っている。


「ぃや...」小さな声

うなされている。

掠れた吐息。

悪い夢を見ているのだろうか。


彼女の指先がワナワナと震えている。

そして、俺のブレザーの袖をギュッとつかんだ。

強い力。驚くほど強い。

「いや...」

表情。

いつもの無表情とは全く違う。

幼い。

無防備。

「こわ...い...」


胸の奥がざわつく。

雪乃の身体がさらに寄ってくる。

すがるような仕草。


「ごめん.....なさい...父さん......ごめ...なさい」

泣きそうな声だった。

知らなかった。

こんな声を出す人だったのか。教室では決して見せない顔。


胸の奥が妙に重くなる。

理由は考えない。

考えたくない。

「大丈夫...」無意識に呟いていた

届くはずもないのに。


呼吸が少し落ち着いてきた。

つかむ力が緩む。

腕にそっと手を添える。

起こさないように。

静かに...


その瞬間

ドタッ!!!

「っ!?」

衝撃。地べたが跳ね、雪が舞う。

「な...!?」

トールの寝返り。

巨体がこちらへ転がってきていた。


「ちょっと待って...!!」

本気で危ない!

雪乃を抱え込むように身を引く。


間一髪。目前でトールの巨体が停止。

「ぐごおおおおお……」

もはや自然災害である。


数秒の沈黙。

鼓動だけがうるさい。

喉がひどく乾いていた。


腕の中。

雪乃は起きない。

全く気付いていない。

信じられない睡眠能力。

再びトールの轟音。

「ぐごおおおおお……」



夜明けの雪原。

白く何も無い世界の中で、トールだけが絶好調だった。

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