第10話 仲が良いんだな
「あのさ...」
「?」
「脚...」言いにくい。非常に言いにくい
「のばしてみたら」
沈黙。
空気が重い。
「え...?」
「い、いやその...膝ずっと曲げてるとつらいでしょ」
必死の補足。
再び沈黙。
「でも...」とても困っている気配。
猛烈に悩んでいるな。
そりゃそうだ。
この距離で脚を伸ばすには...お互いのポジションが。
「ごめんなさい...」小さな声だった
でも、覚悟の響き。
そして...脚が乗ってきた。
すらっと伸びた雪乃の白い脚が、俺の脚と腹の間へ入り込む。
こんなの日常だったら異常過ぎる。
近いなんてものじゃない。危険な体勢。
そして...遅れて人肌の温もりが。
いつも大人しい彼女がこんな事をして、恥ずかし過ぎるに決まってる。
「ご、ごめん...」思わずつぶやく
「うん...重くない...?」泣きそうな声
いや、重いとかそういう問題じゃない。心臓がもう限界。
「だ、大丈夫...」何が大丈夫なのか不明
トールの歩行で、さらに揺れる。
「うっ!」脚が腰骨に押し付けられる
無理だよ、この状況。生ゴロシ...
その時、
「くく...」
外から声。かなり近い。
「随分と窮屈そうだな」
ロキだった。
「!!」雪乃の気配が爆発的に跳ねる
ロキには見えているのか。絶対見えている。
あいつら人外に決まってるから、どんな能力を持っているのか測り知れない。
「いや別にそういうわけじゃ...!」条件反射で俺は否定した。かなり苦しい言い逃れ
「そうか?」
ロキめ、完全に愉快そうだ
「仲が良いんだな」ロキがさらりと追撃
「ち、違っ...!」言葉に詰まる。自分は何を否定しているのか
外で笑い声。非常に楽しそうだ。
やがて...揺れがゆるやかになる。
「止まった?」
「...みたい」
マントが開く。薄暗い景色。日が暮れたのか。
そして、変わらず雪原。
「ここで休む」トールの声
相変わらず豪快だ。
降ろされた。
解放、しかし、脚が...
「はぁ...」雪乃が小さく息を吐いた
心底疲れ切った声。
無理な姿勢だったよなぁ。
というか雪乃は気疲れが大変だっただろう。
簡易的な野営。雪原の上。
だが、
トールは気にした様子もなく座り込んだ。
「寝る」豪快すぎる即断
巨体が座り込み、雪を押し潰す。
「え...ここで?」
「ここでだ」決定事項のようだ
無造作に横になる巨体。雪原にマントを広げて大の字になった。
次の瞬間...トールは眠った。
ドタッと重い振動。
「っ!?」
トールの寝返りだった。激しく雪が舞う。
豪快過ぎる...
「近づくな」ロキが冷静に言った「潰されるぞ」
説得力のある警告。
巨体が再び動く。「ぐおっ!」寝息
地響きのような振動。
腹が上下する。寝息が工事現場みたいだ。
「すご...」雪乃がつぶやく。半ば呆然
「だね...」同意
静まり返る雪原。
だがここだけが騒がしい。
眠れる大男、トール。




