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第1話 急変

そこは知っている世界ではなかった

高校1年生の一条颯太と白崎雪乃が迷い込んだ不可解な世界

雪原から始まる、二人の歩幅


毎日、夜8時に更新

終礼のざわめきは、いつも少しだけ苦手だ。


椅子の脚が床を擦る音。誰かの笑い声。

教室のあちこちで生まれる小さな会話。

どれもごく普通の高校の放課後の風景。


それなのに、ときどき妙に居心地が悪くなる。

理由はうまく説明できない。

ただ、胸の奥に薄く膜が張ったような感覚だけが残る。


1年1組の教室を一人で出る。

廊下はまだ人の気配で満ちていた。

窓から差し込む冬の光は明るくて冷たい。

遠くで誰かが部活の話をしている。


何でも無い日常。

なのに、なぜか少し疲れる。

ため息が漏れた。意味の無いため息。

...癖だな、これ。


特別しんどい一日じゃなかった。

小テストの結果も悪くなかったし、誰かと揉めたわけでもない。教師に当てられて困る場面も無かった。


それでも、胸の奥のモヤモヤは相変わらず居座っている。

「帰ろ...」

誰に言うでもなくつぶやく。


昇降口は独特の臭い。いつもより静かだった。

時間が少しずれているせいかもしれない。

下駄箱の前で靴を履き替える。


外気が流れ込んでくる。

冷たい。乾いた冬の匂い。

吐く息は白く、空気は乾いていた。


校門へ向かう坂道の両脇には、葉を落とした木々が寒々しく立ち並んでいる。

冬の午後特有の澄んだ光。

校庭の舗装された道を踏む靴音だけが響く。


静かだな...


そんなことを思いながら顔を上げる。

視線の先に女子の後ろ姿。

あれは...たぶん白崎...白崎雪乃だ。


同じクラスの女子。成績優秀、真面目、無口。

肩くらいまでのボブ。

薄い肉付きのシルエット。細くスラッと伸びた脚。

教室では余り目立たない存在なのに、こうして外で見ると妙に目を引く。


切れ長の目。細い鼻筋。薄い唇。

儚げで、整い過ぎているくらい綺麗な顔立ち。

...もし笑えば絶対目立つのに。

なのに彼女はいつも表情が暗い。


教師受けは良い。

だが誰かと楽しげに話している姿はほとんど見たことがない。


自分にとっては、教室の中に「いることは知っている」存在でしかなかった。


なのに...

なぜかやけにその後ろ姿が気になってしまう。



彼女はマフラーに顔を半分埋め、一定の歩幅で坂道を下っている。

姿勢は真っ直ぐで、足取りに迷いが無い。まるで外気の冷たさなど感じていないかのようだった。


無言で追い抜くか。

同じクラスなのに話をしたことも無い。

声をかける言葉...無いし。

追い越すのは妙に気まずい。

無理に追い抜くとわざとらしく思われるかもしれない。

だからと言って後ろを歩き続けるのも、なんだか後をつけているみたいで居心地が悪い。


たぶん駅まで一緒なのだろう。

こんな事に困って、我ながら青臭いと思う。


...しかし、どうすりゃいいんだこれ。

少し距離を保ったまま歩く。

10メートルほど。絶妙に気まずい距離。

近くもなく遠くもなく、妙に意識してしまう位置。

はたから見たら絶対怪しい奴だよな。



その時だった。

「うわっ!」

突風!前触れは無し。

普通の風とは思えない圧力が、横殴りに身体を叩いた。

空気が殴りつけてきたみたいな衝撃。息が詰まる。

脚を取られて横に飛ばされ、踏ん張る間もなく身体が持ち上がる。


重力が消えたみたいな感覚。

「っえ?」視界がグニャリと歪んだ。

坂道も木々も空も、全部がねじれたみたいに揺れる。


耳鳴り。平衡感覚が崩れる。


前を歩いていた雪乃のマフラーが大きくはためいた。

彼女の身体がわずかによろめき...宙に浮き、鞄が飛ばされて行く。

「白崎さん!」

声を出そうとした瞬間...スローモーションのようだ。

指先が虚しく空を掴む。

自分の鞄も飛ばされて消えた。

教科書も、スマホも、何もかも、あの中だ...


世界が白一色になった。

音が聞こえない。

風も無い。

感覚が断ち切られる。

足元の感触が消える。


雪乃の姿が霞む。

遠ざかっていく。

いや、溶けていく!?


手を伸ばす。

届かない。

胸が苦しい。

呼吸の感覚が曖昧になる。

鼓動だけがやけに大きい。


「っぐ!!」衝撃。

目を開ける。

白。

どこまでも白。

空も地も区別がつかない。

匂いが無い。風も無い。


静寂...

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