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第四話 音のない別れ
冬。
黒岩の声は、日に日にかすれていった。
「喉、また悪くなったんですか?」
「ああ……もう、長くは吹けねぇかもな」
悠斗は言葉を失った。
黒岩は笑って見せる。
「俺は十分やった。
けどお前は、これからだ」
黒岩は古びたケースをカウンターに置いた。
中には、銀色に光るアルトサックス。
ボディには無数の傷跡。
「俺の相棒だ。
次はお前が吹け」
悠斗の手が震えた。
「……無理ですよ、僕なんか」
「“僕なんか”って言う音は、もう飽きた」
黒岩はかすれた声で笑った。
「お前の音で、笑え。
俺はそれを聴けなくても、
きっと風が運んでくれる」
それが、黒岩の最後の夜だった。




