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第三話 壁の向こうのセッション
放課後、誰もいない音楽室。
悠斗はサックスを手に、深呼吸した。
黒岩に教わった通り、唇に優しくあてる。
「――ぷすっ」
空気が漏れて、変な音。
「……ダメだな」
「最初は誰でもそうだよ」
ドアの隙間から顔を出したのは、隼人だった。
大学の音楽サークルでギターを弾いているという。
「ジャズ、やるのか?」
「はい。黒岩さんに、教えてもらってます」
「へぇ、あの人に。すげぇな」
それから、二人はよく黒岩の店で“セッション”した。
黒岩はあまり話さない。けれど、
ひとつの音で、悠斗の癖も、迷いも全部見抜いた。
「お前、怖がってる音してる」
「怖がってる……?」
「失敗を、だ。音ってのは、嘘をつけねぇ」
夜が更けると、黒岩はグラスを拭きながら言った。
「人に笑われたっていい。
音はな、笑われたやつのほうが、優しいんだ」
悠斗はうつむいて、ただ頷いた。
少しだけ、泣きそうになった。




