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第二話 声の出ないマスター

「いらっしゃい」

掠れた低音。

マイクを通したような歪んだ声。

カウンターの奥には、髭を生やした男。

無骨なサックスを磨いている。

「……中学生か?」

「す、すみません。雨宿りで」

「いい、ここは音を聴きに来る場所だ」

悠斗は店の隅に座った。

店内には常連が一人、ギターをつま弾いている。

そして、男——黒岩がサックスを構えた。

音が鳴った瞬間、悠斗は息を呑んだ。

冷たくて、熱い。

誰の言葉よりもまっすぐな音だった。

曲が終わると、黒岩は言った。

「……しゃべるより、吹く方が楽だ」

「声……」

「ああ、昔、喉の病気でな」

「でも……すごい音ですね」

黒岩は微かに笑った。

「お前も、吹いてみるか?」

悠斗の胸が跳ねた。

その日から、彼の物語は静かに始まった。

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