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第一話 オタクと呼ばれた日
「お前、それアニメのセリフかよ」
笑い声が教室に響く。
悠斗は手にしていた文庫本を閉じた。
『異世界転生したら俺がジャズだった件』——
タイトルの時点で笑われるのは、もう慣れていた。
「いいじゃん、別に」
そう返したが、誰も聞いていない。
彼の机の上には落書き。
『音痴』『キモオタ』『異世界へ行け』。
それでも、放課後の静かな図書室で本を開けば、
彼の世界は少しだけ鮮やかになった。
――けど、現実にはBGMなんて流れない。
――物語のような展開も、ない。
その日の帰り道。
雨宿りで立ち寄った路地裏。
そこにあったのが、小さな看板。
「Jazz Bar TWO OF US」
ドアの奥から聞こえたのは、
言葉よりも優しい音だった。




