セリーヌとの再会
翌朝。
石畳を叩く馬車の音が響いた瞬間、胸の鼓動が跳ね上がった。
門が開き、見慣れた紋章の入った馬車が庭先に停まる。
俺はもう、我慢できずに駆け出していた。
扉が開く。
陽光を受けて現れたのは、二年ぶりの友――セリーヌだった。
「ライアン!」
弾む声。笑顔。そのすべてが懐かしくて、嬉しくて、胸が熱くなる。
二年前より少し背が伸び、髪も長くなっている。
けれど、走り寄る姿も、無邪気に笑う顔も、俺の知るセリーヌのままだった。
「セリーヌ!」
叫んで駆け寄ると、勢いのまま手を取り合い、笑い声が弾けた。
庭の芝生に座り込み、俺たちは夢中で話し続けた。
二年間の出来事を互いに語り合い、途切れることなく笑い合う。
まるで昨日まで一緒にいたかのように、時間の溝は一瞬で埋まった。
「ライアン、背が伸びたね。腕もたくましくなった気がする」
「そっちこそ。声も少し変わったんじゃないか?」
「ふふ、そう? でも泥遊びならまだ負けないから!」
「……ははっ、ドレスでそれ言うか?」
互いに顔を見合わせ、笑いが止まらなかった。
昼過ぎ、母が昼餉を用意してくれた。
テーブルを囲み、父も母も交えて談笑する。
父は豪快に笑いながら、セリーヌに向かって言った。
「ライアンをからかうのはいいが、稽古をさぼらせるなよ?」
「はい! でも……一緒に遊んであげるのも大事だと思います」
「おお、それも一理あるな」
父が笑い、母も微笑んで頷いた。
温かな空気が広がり、俺は胸の奥がじんわりと熱くなった。
午後には庭で花を摘み、花冠を編んで頭に乗せ合った。
「じっとして、動かないでね」
「お、おい……変じゃないか?」
「ふふっ、似合ってる! まるで王子様みたい」
真っ赤になった俺を見て、セリーヌは肩を揺らして笑った。
夕暮れには丘に登り、雲を指さして遊んだ。
時間が経つのも忘れ、語り尽くせないほど言葉を交わした。
そして別れ際――と思ったそのとき、セリーヌが言った。
「ねえライアン。今回はすぐ帰らないの。数日間、この屋敷に滞在するの」
「ほんとに!?」
思わず声が弾んだ。
「ええ。父様の用事があるの。それに……わたしも、ライアンともっと過ごしたいから」
そう言って笑った彼女の顔を見たとき、心臓が跳ねた。
その夜、守り袋を胸に抱きながら、俺は考えていた。
セリーヌと過ごす日々が、これから始まる。
その時間が永遠に続けばいいと、心の底から願っていた。