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紅く染まる君を見てみたい


 三人で、紅葉を見に行ってから、三か月ほどの時間が流れた。

 私と海斗は、あの時から付き合うことになり、レイも喜んでくれた。

 レイは、少し前に唐突に私のことを呼び捨てで紅葉と呼ぶようになった。だから、私もレイと呼び捨てで呼ぶようにしている。


 関係は良好……そのはずなのに……


 最近、海斗と距離を感じる。喧嘩したわけでも、険悪な雰囲気になったをけでもない。毎日のように会いに来てくれるし、一緒に話したり遊んだりしてくれる。なのに、どこかで壁を感じる。これ以上、仲が深まらないようにしているようだ……


 一つ、心当たりがある。私たちが付き合った、あの日。

 海斗は私たちが初めて会った日のことを聞いてきた。私は答えた、病院での

出来事を……

 その時の海斗の悲しそうな顔、あの顔を忘れることは私にはできないだろう。辛く、苦しそうな顔……


 考えている中で、一つの疑問が出てきた。

――なぜ、海斗はあの時に病院に、あの場所にいたのか。


 私と海斗が、出会ったのは、この病院の入院棟と検査棟の渡り廊下。普通の診察で来た人は来るような場所ではない。あそこに来る理由は、誰かに会いに来るぐらいしかない。

 なら、誰に会いに来ていた?


 なんの確証もない、明確な理由もない。でも、そう考えると納得ができる。

――私は、海斗と過去、出会っているのではないか。 


 私は、事故の時の記憶がない。私は幼かった、その上、トラウマからその記憶を抑え込んでいるという。

 なら、海斗と出会っていても記憶がないのは合点がいく。

 海斗と会った、あの日。私のことをずっと待っていたことも、名前を知っていたことも、すべて納得できる。


「ねぇ、パパ。あの事故の事について、教えてほしいの」



 あの日、僕が、紅葉の人生を奪った日。

 15年前、当時僕と紅葉は3歳。

 近所に住んでいたこともあり、よく公園で一緒に遊ぶ仲だった。

 毎日、毎日。夕方の赤い光を浴びて楽しい時間を過ごしていた……


 その日も、二人で遊んでいた。ボールをポンポンと弾ませて、遊んでいた。

 

 ポーン、ポーン、ポーン 


 あ……ボールが変なところに転がった、取りにいかないと。


 トットットッ


 紅葉の声が聞こえた、「危ない!」と……


 僕は、病院にいた。集中治療室の前で、親が涙を流して紅葉の両親に誤っていた。

 それから、しばらくすると、親は僕の前からいなくなった。


 施設に入れられた。4歳の頃だ。

 

 そこから、10年の月日が流れた。僕は聞いた。

 僕の両親は?死んでしまったの?と……


 その時に僕は、すべてを知った。紅葉が下半身不随となって、回復は望めず、最悪の場合植物状態になってしまうと……

 親は、責任に耐えきれなかった。慰謝料だけ支払い、その後、自ら命を絶ったのだと。


 辛かった。苦しかった。聞きたくなかった。知りたくも、思い出したくもなかった。僕のせいで、多くの人の人生を狂わせてしまった。


 僕は、罪を償いたいと思った。殴られても、刺されても、殺されても、僕は、紅葉の足に、人生を支える存在になろうと思った。


 紅葉に会うために、いろんな病院を探した。何年もかかった。

 彼女は昔住んでいたところからかなり離れた病院にいたから。


 紅葉と、再会できた。紅葉は車椅子に座っていた。苦しそうだった。

 本当は、すぐに謝ろうと思った。すべて、打ち明けようと思った。

 

「大丈夫ですか?」


 僕は逃げた。すべてを話す、義務から逃げて、友達という立ち位置に入ってしまった。彼氏という存在になってしまった。

 自分に絶望した。僕は弱かった。何もできない、しようともしなかった。

 自分で自分で責めるほど、紅葉に対する想いが強くなる、苦しくなる。

 

 ……僕は紅葉に恋をしている。


 それは、許されないこと。

 だから、僕は、僕を閉じ込めた。紅葉のことが好きな僕を、殺した。

 僕は、紅葉のために人生を捧げる、奴隷なんだ。



 「……これが、事故のすべてだ」


 パパから、すべて聞いた。海斗の事、海斗の両親の事。

 私は、海斗を助けた。でも、海斗の両親を殺した。


「海斗君を、一度近づかないように言ったことあるだろう」


「うん……」


「あれは、紅葉が、事故のことを思い出したら、紅葉も海斗君も辛くなる。だから、距離をつくろうとした」


「……でも、それは杞憂だった。今の紅葉は、海斗君はもう十分強い。だから、安心しな。もう大丈夫だから」


 その日の夕方。私は一人であの公園に海斗を呼び出した。

 海斗は、約束の時間通りに公園に来た。


 「海斗、事故の事聞いたよ……」


「そっか……」


「最近、海斗から距離を感じてさ、いろいろ考えてたらもしかしたらって思って聞いてみたの」


「うん……」


「そしたらさ、私と海斗、昔から仲がよかったって聞いて、びっくりしたよ。あの時にはもう、海斗は知ってたんだよね」


「そうだね……」


「……海斗、これから話すのは、私の考え。海斗がそれをどう受け取るかはわからないけど、聞いて」


「わかった……」


「海斗は、私の怪我の事で罪悪感を感じているでしょ?そこまで、私のことを思っているのはうれしい。でも、私は海斗と恋人でありたい。うれしいことも、楽しいことも、悲しいことも、辛いことも、全部、全部、一緒がいいの。

海斗が苦しんでいるなら、私にも背負わせてほしい。そう思うの」


「……無理だよ、僕にはそんなことできない。僕は、たった一つの行動で、命を奪った。人生を奪った。足を、夢を、全てを奪った。僕は罪を償う、僕は君の――」


「うるさい!そんなこと聞きたいんじゃない!私は!海斗と一緒にいたいの!過去も、今も、未来も!何にも考えず!ただ一緒にいたい!それじゃダメなの?罪を償いたいなら!私の恋人でいてよ!」


自然と、涙が流れる。言葉が止まらない。


「でも……」


「でもじゃない!あなたは罪を償うというのなら、私の恋人として!罪を償って!それ以外、私は認めない!」


「本当に、僕なんかでいいの?」


「海斗がいい!海斗じゃなきゃヤダ!」


 私の声は海斗の心に響いたのだろうか……

 わからないけど、海斗も涙があふれている。


「なら、これからは、君の恋人として、この罪を償わせてください!」


「はい!お願いします!」


 私にも、海斗にも、罪はある。償え切れないほどの大きな罪が……

 それを背負った中で、私たちは、進む。

 今日も、明日も、明後日も、ずっと……


 涙でぐちゃぐちゃになって、真っ赤になった顔は、夕日に照らされて、さらに紅く。まるで、紅葉のように、私たちは泣きあった。

 

 

 紅く染まる君を見てみたい 完

ついに完結しました。。ここまでのご愛読ありがとうございます。

今作は本当は、もっと短い作品になるはずだったんですけど、書いていく中で、どんどん作品が広がっていって、その結果、ここまでの大きな作品になりました。

でも、二人の作品は、まだ終わりません。もしかしたら、二人が別れてしまうかもしれないし、

渚も一緒に5人で酒を飲みあうような関係になるかもしれない。

それを知るのは、当事者の紅葉たちだけ。

この先、どうなろうと、紅葉たちなら、きっと大丈夫。

みんなは愛でつながっているから

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