夢 叶え 涙
病院から、車で1時間ほど。
山梨県の富士山の麓の紅葉スポットで有名な観光地来ていた。
「やっと、来れたね……」
ここまでは、海斗が車で連れてきてくれた。
話を聞くに、施設の子を遊びにつれていくために免許を取っていたのだという。さすが、優しいお兄ちゃん。って感じだ。
車に乗っている時から、見えていたが、車を降りてから私たちは三人で、「綺麗」と、そうこぼすことしかできなかった。
目の前には、油絵で塗ったかのような、重厚感のある紅い紅葉に、
黄金色に輝く銀杏の葉。
鮮やかな色彩の世界の遠くには、淡く彩られた富士山が見える。
私が、夢見たあの景色。それ以上の景色が広がっていた。
「すごい……」
いつの間にか、瞳の中は涙でいっぱいになって、視界はもうぐちゃぐちゃになっていた。
「まだ、ついただけだよ……ここで感動して泣いてたら帰るときにはミイラになっちゃうよ」
「あはは!確かに、紅葉ちゃん。今は我慢だよ‼」
時間をかけたメイクを崩さないように、涙を拭いて、高揚する感情を抑えた。
「そうだね、これから、もっといい景色見れるわけだしね」
「まずは、予約してたお店に行かない?」
海斗の先導で、まずご飯を食べることになった。
*
訪れたのは、日本食のレストラン。
木目調の建物に和風シックな内装。建物の中にある、一本の紅葉の木。
見るからに高級店だ。
「ここって、結構高いところじゃない?」
「まぁ、僕の奢りだから気にしないでよ」
「そうは言ってもさ?」
「僕のわがままに予定合わせてもらったし……このぐらいはね?」
外食経験も乏しいし、こんな高級店なんか来たこともない。
テーブルマナーだって正しい所作でできる自信もないのに……不安だ
「お待ちしておりました、西園寺様。案内いたします。こちらへ」
店員さんの案内に従い店の奥に進むと、さっきから見えていた紅葉の木の下の個室に案内された。
「ありがとうございます」
さわやかに対応しているけど、海斗は本当はかなりすごい人なの?
「個室なら、周り気にしなくていいでしょ?」
「それは、そうだけど絶対いい部屋じゃんここ……」
レイちゃんもずっと困惑気味じゃん……
「そうだね、部屋の指定はしてなかったから運がよかったよ」
「そっか、私たち海斗がすごい大金を使う気なんじゃないかって、心配だったよ……」
「食事代だけでもかなり高そうだもんね……」
「さっきから言おうと思ったけど、ここそんなに高くないよ?」
「嘘だ、こんないいお店なのに?」
「嘘じゃないよー……ほら」
タブレットに写し出されたメニューは、どれも800円台。
普通なら1000円超えてもおかしくないのに、すごく安い……
「聞いた話によると、地元の食材を使っているから安く、新鮮らしい。で、この安さでこの店の綺麗な外観だから結構人気らしい」
「よく、予約出来たね」
「紅葉見たい!って話になった時からずっと調べていたんだよね」
「今日がいいって言ってたのもこれのためだったのか……」
「そう!二人にサプライズ!」
全く、本当に私の友達は敵わないな……
それぞれ、昼ごはんを注文し、10分もしたらどんどんと、料理が提供されてきた。
プルプルで、カラフルな食材がちりばめられた茶碗蒸しに、弾力のある卵焼き、出汁の香りが広がる鴨そばと、山梨のほうとう。
そのどれもが、食欲をそそり、息をのむ。
「おいしそう……」
もう、まともな感想なんて出ない。おいしそう、本当にその一言に尽きる。
「冷めないうちに食べちゃおうか」
「そうだね」
「「「いただきます」」」
まず、手を伸ばしたのは茶碗蒸し。今までの人生の中で一度も食べたことがなかったから、どんな味なのか、どんな食感なのかとても楽しみだ。
ハムッ
口の中に入れた瞬間。涙が出そうになった。
おいしい。本当においしい。
魚介の出汁と茶碗蒸しの中にある食材が濃厚なのにくどくなくて、銀杏も椎茸も食感が面白い。
「おいしいよ!海斗!」
「うん!本当だね、卵焼きもいいよ」
その調子で、30分ほど、私たちはごはんを堪能した。