15 片足がない貴族の朝の風景
松葉づえをついて部屋まで戻った
松葉づえだと移動に時間がかかるものの食事も着替えも読書もできるから幸運である
そう言われ続けていた
そうだろうな
頭では納得している
目が見えなくなった者や片腕がない者に比べれば普通の生活ができる分恵まれていると言って良い
そこは判る
判っている
だが思ってしまう
なぜオレは足がないんだ、と
目が見えない
それがどうした
剣が振れるだろう
もともと剣筋なんて目で追えないんだ
回避は剣の気配というか相手の気配を呼んで避けるだろう
それに夕方や夜の戦いなんてほとんど勘みたいなものなのだ
目なんて必要ない
利き腕がない?
それがどうした
反対側の腕があるだろう
もともと剣と盾をそれぞれ持つんだ
反対側の腕だろうと慣れれば剣は普通に触れる
でも片足がないのは剣士として致命的だ
剣を振っても踏ん張れないのだ
力のないへろへろな剣なぞ格好の餌食だ
だから思ってしまう
なぜ足なのか
もしも選べたのなら目だろうが利き腕だろうが喜んで差し出したことだろう
両足と片腕があれば十分だ
なのになぜ足なのだ
何度も思ってしまう
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剣士ならば足
文官ならば腕
勇者様は容赦がないですね@作者




