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04 紅茶とサンドバック

 領収書未受領から一夜明けて。

 朝食のワッフルをいつものようにランさんと食べ、掃除や依頼の振り分けを追えるとマーケットへと向かう。

 このツェントルムの街は冒険者が多く、冒険者向けの店が多い。というのもこのあたりは魔獣が多く生息し、それでいて資源も豊富だという理由があった。

 その魔獣や資源、そして迷宮(ダンジョン)といった特殊なエリアを求めて冒険者が集まったのだ。そしていつしか大きな街となったというわけである。


「ごめんください」

「はい」


 辿り着いた先は魔石店。

 領収書の再発行を頼みに来たのだ。店内には無愛想な店員がひとり。


「すみません、数日前にうちのスノウ・プリメアが魔石を購入したと思うのですが」

「はい」

「領収書を貰いそびれたそうで、再発行をお願いしてもよろしいでしょうか」

「……確かに領収書は渡したはずだけど」


 明らかにめんどくさそうな顔をした店員だ。

 彼女の言葉を信じるならば“貰っていない”

 店員の言葉を信じるならば“確かに渡した”

 見事に食い違っている。


「手違いが起きたみたいなんです。再発行は出来ませんか?」

「確かに渡してるんで二重発行はできません」


 正直、限りなくスノウさんが無くした可能性が高いと思っている。この店員は無愛想ながら仕事はきっちりこなす。

 それにスノウさんが領収書を紛失したのは一度や二度できかないのだ。


「……わかりました。無理を言ってすみません」


 一度副マスタ―に相談しよう。今ならクランハウスに居るはずだし。

 店員に頭を下げると元来た道を戻る。

 

 ハウスに戻ると副マスター、ヘルマンさんが依頼の達成率を確認していた。彼がいるのは二階のマスター部屋であるが、マスターが帰っていないので実質彼の部屋である。

 最近効率がちょっと落ちているからかその目は険しい。あまり話しかけたくないなぁ。とはいえ話しかけなければならない。

 期限が刻一刻と迫っているのだ。


「ヘルマンさん、少しお聞きしたいことが」

「それは今必要なことか?」

「……はい」


 もうすでに嫌だ。ともかく領収書の件を話す。

 不手際があって後々に責められるのは私なのだ。


「そうか。じゃあお前が建て替えておけ」

「は、?」

「俺たち冒険者はクランに金を納めているんだ。副マスターの俺でさえな。その金からお前の給料が出てるんだから建て替えるぐらいしろ」

「でも、それは」

暗夜行(ナイトウォーク)はツェントルムでも有数のクランだ。他にハウスメイドの成り手はいくらでもいるんだぞ」


 ああ、本当に嫌だなぁ。


「……わかりました」


 確かにお給料を送る先も無ければ、仕事に追われて使い道だってあまりない。

 だからって私が立て替える必要ある? お金だって働いた分の正当な報酬なんじゃないの? なんて思ってもやっぱり言えないもので。

 長らく暗夜行(ナイトウォーク)に住み込みで依存しすぎたツケだ。今から家を失うと思うと怖くて何も言い返せやしない。


「それと、」

「まだ何かあるのか」

「最近、スノウさんとルーナさんで亀裂が起きてるみたいで。ヘルマンさんから何か言ってみたらと思いまして」


 流石に憔悴しているランさんが可愛そうだったからダメ元で言ってみる。


「それぞれで研鑽してちょうどいいだろう。外野のお前が口を出すな」

「……そうですね」


 ダメ元はやっぱりダメだった。

 辞めたいなぁ、嫌だなぁと思ってはいてもどうにもならない職場環境である。

 ひとまずヘルマンさんから離れて落ち着きをとりもどしつつ、一階へと戻る。


「ルーナさんは被弾が多いと思いますっ!」


 見計らったようにダイニングが騒がしくなっていた。

 そっとキッチンに入り様子を伺う。このキッチンはカウンターキッチンとなっているのでダイニングの様子はよくわかるのだ。


「詠唱をやり続けて火力貢献した気になっているんでしょうけど、そのフォローのせいで皆さんに迷惑がかかっているんですよっ!」

「いつもこれで上手く依頼が出来ていたのよ。新人が口を出さないで貰えるかしら! そもそもあんたの軽減(バリア)が薄いんじゃないの!?」


 声を張り上げているのはスノウさんだ。彼女は回復魔道士であるが、防御魔法などによってパーティの身を守っているので思うところがあるのだろう。

 ルーナさんは攻撃を得意とする魔道士であるが、詠唱を重ねれば重ねるほどに魔法の威力は増す。

 だから周りに防御を任せて固定砲台の如く詠唱して周囲を焼き払う戦法をとっているのだ。


「詠唱破棄も出来ないで、被弾ばかりして。魔道士向いてないんじゃないですか! まずパーティメンバーを優先してくださいよ!」


 スノウさんはますます強く語気を荒げる。

 押されたのかルーナさんは黙り込んだ。


「スノウ、流石にそれは言い過ぎだ。拘りをもって魔道士やってる奴に最大限の侮辱だぞ」


 間に入ったのは同じパーティメンバーのリーダーである剣士だ。

 確かにスノウさんは言い過ぎた。それでも、まぁ。ルーナさんの装備が傷みやすいのは事実で。なんなら他の人が庇ったりして負傷者が出ているのも。

 ふと爆心地の隅を見るとランさんが暇そうに佇んでいた。あの顔は“面倒だな。早く終わって欲しいな”の顔だ。


「気を付ければいいんでしょ。これでも回避しようとはしているのよ」

「おう! いつも助かってるよ」


 仕方がない。

 あのギスギス空間も少し収まっている。あれだけ叫んだら喉も乾くだろう。

 紅茶を人数分用意すると、ダイニングへと運ぶ。


「皆さん、お疲れ様です。飲み物を用意しまし――」


 びちゃり

 うん? 一瞬何が起きたのか分からなかった。そしてやってくる熱。

 あっつ!!!

 紅茶をかけられた。茫然としたまま相手を見る。ルーナさんがカップに指をかけてぷらぷらと振っていた。


「あ、ごめんなさい。手が滑ったわ」


 なんでこんなことをされたのか真面目に理解できなかった。


「リテイナさんはいいわよねぇ~! 身体を張らなくても紅茶だけ飲んでたらいいんだから」


 ああ、要するに八つ当たりだ。


「リーテスさん!」


 すぐさま駆け付けたランさんが自分の服の裾でごしごしの拭ってくれる。

 全く焼け石に水状態だがその気持ちがありがたい。だって、他の人間はルーナさんの機嫌が収まるならいいかといった具合なのだ。

 わかりやすく生贄である。


「やっぱり男って単純よねぇ~! こうやって、守られてる弱い女がいいって」

「ルーナさん、なんてことを! 事実でも言っていいことと悪いことがあるんですよ!」

「アンタには言われたくないわよ!」


 お前ら実は仲いいんじゃないかな。

 最悪だ。私をダシにあれだけ荒れていたギスギス空間が纏まりつつある。()()()()()はどうでもいい。この場が収まればいいのだから。

 これは本格的にサンドバックにされてしまいそうだ。案外冷静に今の状況を分析していた。


「あの、リテイナさんって昔冒険者やってたんですよねっ! どうして避けなかったんですか?」


 全く無警戒の状態で避けられるか。

 スノウさんは心底不思議ですといった顔をしているが、冒険者がみんなそんな反射神経を持っていて堪るか。しかも私は元・冒険者だ。

 しかも5年前、軽い依頼をしていたっきり。


 やっぱりか弱く見せてるんだ……とざわつき始める他のメンバーたち。彼らも実力者ではあるので“不意打ちは避けられて当然”といった具合に冒険者の基準が高いのだろう。

 強い女と思われたいわけじゃない。でも、あえて弱く振舞っているなんて見当違いな思い込みはされたくなかった。

 

「……めよう」


 何やらランさんがぶつぶつと言っている。

 はるばる東方からやってきた彼にこんな場面は見せたくなかったなぁ。出来るだけ冒険者の綺麗な所をみていて欲しかった。


「辞めよう、リーテスさん」

「はい?」

「このクラン、おれも辞める」


 は?

 声を揃えて疑問符を浮かべたのは、この場にいた全員。

 ただその中でランさんだけはしっかりと私の目を見ていた。

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