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24 いてこますぞ

 まさか移動に丸半日かかるとは思っていなかったな。馬車を改造した乗合の魔導車だって大きな街道までで、ガタガタとした山道は走れない。だから道が荒れてくると徒歩での移動だ。

 3日目の仕事はそんな移動だけで終わった。近くの宿で一泊して英気を養い、朝からお掃除というわけだ。

 流石は羽振りのいい登龍一家。宿屋のランクが冒険者の泊まるような宿とは違った。そもそもこの人たちは冒険者ではないので、ボロ宿屋が想像もつかないのかもしれないけど。

 だから今日は早朝から山籠もりとなる。

 

「わざわざ来てもろてすまんな」

「いえ、仕事なので。おそらく解呪よりも移動の方が長くなりそうですが」


 山の罠掃除のメンバーはゴクタさんと料理担当くんことラントさんだ。

 今から掃除しに入る山は登龍一家が所持している山で、借金が返せない人間をここで林業に従事させているのだとか。

 ……それって合法なやつだよね? あと土の中から人骨とか出てきたりしないよね? 何を見ても目を瞑ろうと決めた。


「山ん中やけどメイド服(その服)で大丈夫なんか」

「リャオ・ランに汚れ防止の付与魔法をかけてもらっています。今日一日ぐらいなら持つでしょう」


 山の中であろうと私の仕事着(と、普段着)は変わらない。山に行くと言った時、ランさんが心配して様々な強化付与をかけてくれたのでいつもより調子がいいぐらいだ。

 自分自身に強化魔法をかけられる魔道士はそれなりにいるが、他者や無機物にまで強化を行える魔道士は珍しい。ランさんは魔道士ではなく強化(バフ)を自分にかけて殴る格闘士(アタッカー)なんだけど。


「あのトラバサミのせいでこっちの仕事も止まってもうてな。そんで俺が調査してたんや」

「解呪に失敗した方が寝込んでいると聞きましたがゴクタさんは大丈夫なんですか」

「発動しても鎖に捕まる前に射程外まで避けたらええだけやろ。解呪せんでええんやったらそれぐらいは出来るわ」


 この人も大概おかしいこと言ってるな。感知されずに呪具を持てるリスイさんといいギャングの幹部格は狂った人間しかいないのか。

 我ながらなんでこの人の居合を防げたんだろう。ラントさんは「アニキすっげぇ!」と憧憬の眼差しをよこしている。


「それで罠はいくつあるんですか?」

「確認したところやと12箇所。そこだけ先取ってくれたら木の出荷は出来るし、後はゆっくり専門の解呪業者にでも頼むわ」


 ギャングというからには非合法な商売をしているのかと思っていたけど、わりと堅実に働いているようだ。フロント事業というやつかもしれないけど。


「それにしてもどうして仕掛けられたんでしょう。あの罠、人間を対象にしたものではなく獣が対象ですよね」

「んなの決まってんじゃん。ヴェスト・タイガースがアレしそうだし」

「ヴェスト・タイガースの優勝となんの関係が」

「あー! アレを言うな!」


 ヴェスト・タイガースとは南部大陸で現在全国大会が行われているスポーツチームのひとつ。魔法によってボールをありとあらゆる方法を使って打ち上げるようなスポーツだっけ。

 あまり興味が無いので知らないのだ。ちょっと熱くなっているラントさんに置いて行かれているとゴクタさんが説明してくれた。


「ウチの山にはな、トラネコが生息しとんねん」

「はぁ」

「ヴェスト・タイガースのマスコットキャラやから、全国大会アレにかこつけて密猟して売り捌こうとしてる奴らがおるんや」


 トラネコはオレンジに黒い縞々模様の猫だったはず。山猫、それも魔獣の一種で愛らしい外見に似合わず雷魔法を駆使して獲物を狩る魔獣だ。

 いくら金になるからってギャング所有の山から密猟するなんて度胸が凄いな。自分が木々の肥料にされるとは思わないのかな。


「せやから、解呪は姉チャン頼むわ。俺らは密猟者が居ったらいてこます」


 ボコボコにされるのか密猟者。その前に最寄りの警備官に突き出した方がいいんじゃ……


「俺たちのシマで好き勝手したことを後悔させてやりましょうアニキ!」

「二度と近づかんようにしたるわ」


 密猟者を見つけるとこっそり逃がすべきか。それとも二人をダメ元で説得するべきか。判断に迷うな。

 死にそうになったら止めるだけ止めよう。二人が止まるかはさておき“精一杯止めようとしたけど駄目でした”ならまだ私の罪悪感も薄れるだろう。


「他の従業員の方は大丈夫なんですか。こんな呪具罠(トラバサミ)が仕掛けられた場所で働いてるなんて」

「作業中になんかあったら危ないからな。休みとらせとる」


 人命第一みたいな倫理観持ってるのかこの人たち。

 これが冒険者だったら『気を付けて依頼をこなしてください』以上。といった具合になっていると思う。

 冒険者の命はとてつもなく軽い。実力ひとつで参入出来て当たれば大きいだけで、成功できる冒険者なんていったいどれ程いるのやら。

 ついでに言うと、成功出来ない冒険者は日銭を稼げている程度ならマシな方でだいたいが五体不満足か死を意味している。


「では、解呪をしていきますね」


 さっそく1箇所目の解呪を試みる。やはり屋敷で解呪したトラバサミと組まれている術式は同じだ。これならすぐに解呪出来る。

 落葉などで綺麗に隠されていたのをラントさんが見つけたらしい。本人曰く、眼が良いんだとか。

 なにか捜索系の魔法でも使えるんだろう。


「この罠って生け捕り用の罠ですよね。……思ったんですけど、もしトラネコが捕まっていたら回収しに来た密猟者と鉢合わせすることになりません?」

「最初から言うとるやろ。いてこます為に俺がおるんや」


 見つけ()()ボコボコにするんだと思ってた。違う、これは見つ()()ボコボコにしてやる気しかなかったんだ。

 流石はギャング、手が早い。


「俺は索敵要員ね。そういう祝福(スキル)持ち」

「……なるほど」


 魔法ではなく祝福(スキル)の方だったか。生まれ持った体質や能力は祝福(スキル)と呼ばれている。ラントさんもやる気しかないようだ。

 若干引きながらもお客様の前だと悟られないように笑ってごまかす。


◆◆◆


 9箇所目のトラバサミを解呪して、安心したのもつかの間。

 出来ればこのまま穏便に終わりますように、なんて願いは叶わない。


「にゃ……ぁ」


 バチバチと雷を発生させては鎖へ吸収されぺたりと地に伏せる猫、もといトラネコが居た。

 身体には鎖が絡みつき、前足にはトラバサミが食い込んでいる。

 あくまでも愛玩用として捕獲する為、金具の挟む威力は緩い。それが救いだろう。さもなくば前足は千切れていたはずだ。


「アニキ、近くにいます。3時の方向に2人、7時の方向に1人」

召使(リテイナー)! ラントを頼んだぞ。そいつは非戦闘員だ!」


 え、ちょっと!

 長ドスを抜き駆け出していくゴクタさんの背に、私の声は届かない。どちらかというと私も非戦闘員だと思うんだけど!

 とにかく何も無いよりはマシだと収納鞄(アイテムボックス)から2代目のモップを顕現させた。

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