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23 セキュリティ・ホール

 穏やかなランチタイム。明るい少女の声が響く。

 

「リー姉、美味しい!」

「ありがとうございます。よければ私の唐揚げもどうぞ」

「やったー! ありがとう」


 素直な感想を言われるとやっぱり嬉しい。ついついエプルさんに甘くなっている自覚はある。

 違う、これは甘いんじゃない。ただのご褒美だ。朝から草むしりをしてくれていたのだから。


「エプル、わしの分も要るか?」

「いいの?」

子ども(ガキ)が遠慮するもんとちゃうわ」

「ありがとう親分さん!」


 どうしてリーチさんまで渡しているんだろう。大きな瞳にくるくると変わる素直な表情。……わかるよ、エプルさんは可愛いし。

 でもギャングの親分がその調子でいいのか。中庭の雑草をせっせと抜いている姿がリーチさんの目に入り、普段みない子どもの姿に絆されていたらしい。


「ジイさん、女に現を抜かしてって笑われんで」

「別嬪さんに現抜かすんは礼儀や」


 まったくもう。でも、エプルさんがにこにこと笑っているので私からは何も言わない。

 可愛いは正義。それにボロ雑巾のようなエプルさんを知っているので、ふくふくと笑っている姿を見るとこみあげてくるものがあるのだ。


「姉チャンは足りるんか?」

「私を何だと思っているんですか」


 笑いながら私の皿を見るのをやめろ。いたって普通の量だ。

 先日、リスイさんに奢ってもらった時にたくさん食べたのはそういう気分だっただけなのに。

 娯楽として食べようと思えばたくさん胃に入るだけで、普段の食事量は普通だ。なんなら食べなくてもいい。


 それよりも、と私は口火を切る。


「ただの食事だけなんてわけではありませんよね。何か私に言いたいことがあったのではありませんか」


 昨日もエプルさんと昼食を食べていたようだけど、私には何も声がかからなかったし。わざわざここに招くだけの話があったのだろうと踏んだ。

 その予想は当たっていたらしい。リスイさんが一旦席を立ち、部屋の奥から何かをゴソゴソと持ち出してきた。


「これなんやと思う? あ、危ないから触らんようにな」


 大きな金具と鎖で出来た道具。

 埋め込まれた小さな魔石と漏れ出た魔力から呪具だとわかる。この人、また劇物を贈られたのかな。

 でも呪具にしては使用用途が人に贈るようなものじゃない。人に贈る為の呪具はもっと、()()()()()()()()()()()()()をしているのだ。


「狩猟用のトラバサミですよね。それも呪具として術式が組まれている特別製」

「正解」


 普通の獣や弱い魔獣が相手ならただのトラバサミでいい。でもこれは、強い魔法を使うような魔獣を狩猟する際に使われる。相手の魔力を奪える代物だ。

 挟む力はあまり強くないから傷付けずに、そして抵抗されることなく生け捕りに出来る。


「……お客様の方針には口を出しませんが。密猟でもするおつもりですか」


 なんでそんなに詳しいかって? 魔獣の生け捕り依頼を昔受けた時、良い方法を探して行きついたものの高くて手が出なかったのだ。

 あの時は結局殺さないように殴りかかって捕まえたっけ。


「失礼な。密猟とかするわけないやん」


 ってリスイさんは言うけど、傷付けずに捕まえたい魔獣なんてだいたい希少種だったりするんだよなぁ。

 ギャングの収入源には密猟もあるらしい。どうか目前の犯行を知らないままで居させて欲しい。


「まだ失礼なこと考えとるやろ。ま、ええわ。これ解呪出来る?」

「出来ますけど。いいんですか」


 この狩猟用呪具は貴重なものだと思うんだけど。


「頼むわ。ウチのもんが解呪しようとして、逆に魔力吸われて寝込んでんねん」


 わざわざ見せてきて解呪とは。

 これはあくまでも生け捕り用の罠なので解呪に失敗しても命に関わりはしないだろうと引き受ける。


「一応参考までにお聞かせください。これを解呪しようとした方はどうやって?」

「確かコルメイ式で術式辿るん失敗したって言うとったな」

「ありがとうございます。ちなみに壊してもよろしいですか」

「ええよ」


 先人の失敗の話は聞かせてもらわないと。同じ轍を踏んで私まで寝込んだとなれば目も当てられない。

 魔力を一気に抜かれると死にはしないがとてつもなく疲れて立ってすらいられなくなるのだ。エプルさんとリーチさんに少し離れてもらって解呪作業にとりかかる。

 興味津々なのはリスイさんぐらいだ。口の閉じたトラバサミに手を伸ばし、直接掴む。


「そういくん!?」


 そして微弱な魔力を流した。

 鑑定なんて便利な魔法は使えないので。直接手を出して込められた読み取る。

 触れたら即アウト、死にますといった危ない呪具以外は多少手荒にしても問題ない。


「この方が早いですから」


 トラバサミは閉じているので挟まれはしない。が、金具に付けられた鎖が浮かびあがり私の腕に巻き付く。

 これかなり吸われるな。でも動けなくなるほどじゃない。じわじわと弱らせるタイプの罠か。今寝込んでいる人は術式の逆算に失敗して呪詛返しでもくらったのだろう。

 呪具には防衛術式もたいていセットで付いているものなのだ。


「大丈夫なん?」

「はい。粗方解析は出来ました」


 脆弱性のある部分へ魔力を流す。


解除(unlock)


 すると鎖が力を失い、ぱたりと落ちた。

 これは()()()()()()()()()()。誤ってトラバサミが発動した際に解く為のものだ。

 呪具は魔道具に近いもので、というよりも呪具作成理論を日常生活に利用したものが魔導機器ともいえる。とにかく魔法と違って一度発動してしまえば途中で対象を変えたり中止することが出来ない。

 だからあえて脆弱な部分(セキュリティ・ホール)を作ることで、間違えて発動した際の緊急停止装置としているのだ。


「流石やな」


 動かなくなった呪具を前にリーチさんが感心したような声を出す。褒められてまんざらでもないが、これぐらい特別でもなんでもない。

 本当は呪詛返しを喰らうかもしれないけど、術式を逆算して解く方が賢いやり方だ。今使った方法は呪具を発動させてから脆弱性を突くやり方なので、命の危険がないと先にわかっているものじゃないと出来ない。

 なんならランさんは呪具が発動して効果を発揮する前に魔力を纏わせた拳で術式ごと粉砕出来る。


「話とはこの解呪のことでしょうか」

「せやで。ほらな、リーテスさんやったら出来るって言うたやろ」


 リーチさんにドヤ顔を見せるリスイさん。なんでそんなに得意気なんだろう。

 今回はたまたま出来たから良かっただけで、次も出来るとは限らない。あまり持ち上げないで欲しい。


「なぁ」


 嬉し恥かしい気持ちで黙っているとリーチさんから声をかけられた。


「リテイナーズ・サービスちゅうんは何でも掃除するんやんな」

「はい」

「それは屋敷に限ってか?」

「ご依頼いただければ何処でもお掃除いたします」


 下水道だろうがどこへだって赴きますとも。

 今一度私はリーチさんへ向き合う。


「これ、ウチの山に仕掛けられててなぁ。場所はだいたい割れとる。せやから掃除して欲しいんや」

「畏まりました。誠心誠意、お掃除させていただきます」

「ああ、あんたやったら()()()()()ってわかったわ。せやから頼む」


 話はわかった。

 こういった罠は同じ術式を使い回しているだろう。解呪も一度解析した以上難しいものではない。それに設置されている場所も割れているなら尚更。

 さっさと終わらせて、お客様のご要望に応えようじゃないか。




【レポート2 エプル】

 きょうはからあげ、とってもおいしかったよ!

 たくさんくさもむしったら、おやぶんさんがほめてくれてうれしかった!

 もっとたくさんおしごとがしたいな。


【Re:レポート2 リーテス】

 おつかれさまです。たくさんはたらいて、とてもえらいですね。

 でも、あまりはたらきすぎるつかれてしまうので気をつけてください。

 明日から私は山に行ってきますので、その間はリャオ・ランさんのいうことをしっかりときいていてくださいね。

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