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21 畳掃除

 あれだけ渋っていた依頼であるが、登龍一家勤務初日。

 思ったよりも順調に掃除は進んでいた。


「細かい所に手が届かないと聞いていましたが、私たちが必要ないぐらい美しいですね」

「あざっす!」


 屋敷で普段掃除を担当している子――リスイさん宅に案内してくれたチンピラお兄さんことイオさんだ。

 お兄さんと呼び掛けているが、一回り以上は年下だろう。考えたらちょっと悲しくなってきたので年齢の話はやめよう。

 ともかく、普段は住み込みでギャング見習いをしながら掃除を担当しているイオさんである。彼に屋敷について話を聞きながら掃除をしていたのだ。


 やっぱり掃除屋を雇わなくてもよかったような。

 それぐらい屋敷は綺麗だった。リスイさん宅が酷すぎて感覚が狂っているのは否めないけど。


「畳掃除に茶葉を撒いた時は何するんやと思ったけど、悪くないもんすね」

「東方家屋の掃除は慣れないもので、リャオ・ランから聞いた方法をやっているんです」


 実は靴を脱ぐようなお屋敷に入った経験が無かった。だからランさんにいろいろと教えてもらったのだ。

 普段掃除をしないとは言っていたけれど、通っていた道場の床掃除などはやらされていたようで。掃除していた時のことを必死に思い出してもらった。


「生活の知恵ですね」

 

 畳掃除にはお茶殻が良いらしい。登龍一家ではお茶を愛好する者も多く、出涸らしのお茶はすぐ手に入った。

 ランさんに教えてもらった通りに掃除をしたところ、お茶殻のおかげで埃は立たないし香りもいいし良いこと尽くめだ。


「はぇえ、あのセンセイが」


 そしてなんと、初日にしてランさんは先生として慕われていた。

 というのも、屋敷の掃除をしようにも既に整っているので人手は要らない。明日からはエプルさんと留守番してもらおうかという話になったとき、ゴクタさんより声がかけられたのだ。

 登龍一家の武術指南役をやって欲しいと。今は離れの道場で稽古中だった。


 ちなみにエプルさんもギャングの本拠地(こんな所)に連れてくるのは気が引けたのだが、今回の同行は危険も無さそうだし特別である。

 留守番という言葉が出た瞬間に悲しそうな顔をしたのだ。いくら彼女の為とはいえ良心が痛んだので連れてきてしまった。

 今は草むしりといった簡単な雑用をしてもらっている。


「ほんま流石はプラチナの冒険者っすよね。一気にウチのアニキたちをなぎ倒して」

「もともと対人戦の方が得意なのだそうです」


 年若い武術指南役に黙っていないのが登龍一家の血気盛んな中堅たちだ。「ほんまに相応しいか試したらぁ!」からのランさんによる蹂躙が始まったのである。

 そうして序列がしっかりと叩き込まれた登龍一家。ランさんの上司にあたる私も特に若い子たちから敬語を使われているという訳だ。


 よし、東側の畳の掃き掃除は終わった。次は畳の凹み修繕をしよう。

 私だってランさんに教えてもらってばかりではないのだ。止まり木の女将さんから話をきいたり、本で調べたりと自分なりに掃除方法は調べていた。


「雑巾はありますか?」

「すぐ持ってきます!」


 ぱっと走り去ったイオさんはすぐに雑巾を持ってきてくれた。なにかと使うものであるし場所を聞いておこう。

 いや、次からは持参しなければ。私の収納鞄(アイテムボックス)は掃除道具でパンパンだが、整理すれば雑巾ぐらいは入るだろう。


水よ、満たせ(water)


 ちょっと雑巾を湿らせるぐらいなら水場に行くよりも魔法を使った方が早い。濡れ雑巾を畳の凹んだ部分にあてる。

 その上から私は手を重ねた。


熱よ、ここに(heat)


 手がじんわりと温くなる。温いと感じているのは私だけで、実際には火傷がするほどの熱が私の手から発生しているのだが。

 魔法とは不思議なもので“自分を傷付けるものではない”と認識しながら行使するとたとえ炎魔法を使っても火傷ひとつ負わないのだ。

 だから魔法初心者はまず、認識訓練から始めなければならない。炎魔法を使って自分が火達磨になれば本末転倒なのだから。


「何してるんすか?」

「畳の素材であるい草の性質を利用して凹みの修繕をしているんです。後はこうやって乾燥させると――」


 魔法で畳の水分を飛ばす。


「すご! 凹みが直ってる!」


 まったくイオさんはいいリアクションをしてくれる。

 偉そうに言ったものの、実際に試したのは始めてだったので上手くいってよかった。


「私は魔法で代用しましたが、魔道具のアイロンやドライヤーがあれば同じことが出来ますよ」

「他の部屋でさっそく試してみるっす。細かいことが気になるアニキも居るんで喜ぶやろなぁ」

「焦げないようにご注意を」


 スチームアイロンがあれば濡れ雑巾すら要らないらしいけど、あれは高級品である上に嗜好品みたいなところがあるからこの御屋敷にはないだろう。

 水魔法と熱魔法の応用でスチームアイロンを再現しようと頑張ってはいるのだが出力の調整がどうにも難しいのだ。

 買った方が早いと悪魔が耳元で囁いている。午前中に母屋の畳掃除は終わらせてしまおうと、悪い考えを振り払った。




【レポート1 リャオ・ラン】

 今回の仕事は全く役に立てないのかと思いましたが、リーテスさんの力になれてよかったです。

 対人戦ばかりの私ですが、特技とは何が役立つかわからないものですね。教えるという行為は不慣れですが指南役を頼まれた以上は一生懸命こなしたいと思います。

 エプルもリーテスさんと一緒に居ることが出来て嬉しそうです。


【Re:レポート1 リーテス】

 いつもランさんには助けられています。本日はランさんから教えて頂いた知識を生かすことができました。本当にありがとうございます。

 お掃除とはあまり関係のない武術指南役ですが、引き受けて頂いて助かります。無理のない程度に励んでください。

 幼いエプルさんにお仕事をお願いしている身ではありますが、彼女が寂しくないのなら連れてきて良かったのだと思いたいです。

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