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20 ファミリーレストラン

 契約書云々を片付けた午後。リスイさんのお誘いでランチを奢って貰えるという話になった。

 ちょうどお腹も空いていたし、リスイさんなら悪い店に連れていかれはしないだろうと有難く申し出を受け入れたのだ。


「レストランだー!」

「お子様ランチもあんで」

「私おこさまじゃないよ?」


 はしゃぐエプルさんがこけないように手を繋いでおく。

 リスイさんの保護者、もといゴクタさんはリスイさんの書類仕事やらを押し付けられた為に不在だ。

 護衛やったらリテイナーズ・サービスで間に合うやろ、と言われた。否定はしないが掃除屋に護衛まで求めないで欲しい。


「姉チャンやっぱ度胸あるよなぁ」

「そんなことはないですよ」

「そら本家まで行って組長の前で断って帰れる奴なんて早々居らんて」


 でも受けたら確実に面倒になるのは目に見えていたのだから仕方がない。誰が好き好んで破滅へ向かうというのか。

 冒険者時代より嫌というほど学んだ。危機察知のない人間から死んでいくのが世の常なんだと。


「ほら、友達とか人質に取られたらどうしよとか考えへんの?」

「自慢になりませんが友達居ないんですよ」

「その出だしから始まってほんまに自慢にならへんことあるんやな」


 だって暗夜行(ナイトウォーク)で忙殺されてたんだから仕方ないだろう。休日という休日なんて無かったんだから。

 それにクランの人たちはあくまでも同僚という感じで友達の定義とは違う気がした。


「リー姉、私も友達居ないよ!」

「……今回のお仕事が終わったら公園にでも行きましょうか」


 慰められているのだろうがあまりにも悲しい。ちょっと遅めの公園デビューをしたらどうにかなるだろうか。


「友達、か。おれもゴールドに上がったぐらいからクラン外の人間と疎遠になっていった」


 たぶんだけど。ランさんの場合はあまりにも早くランクを上げすぎたので自然と距離が出来てしまったのだろう。

 あと彼自身、あまりお喋りな方じゃない。異郷の地で交友関係を結ぶのは意外と難しいのだ。


「ほんまごめん、この話やめよか。ちょうど食事も来たし」

「オムライス!」


 この気を使われた感じ、逆につらい。そもそもこの人に気が使うなんて真似が出来たのか。気を使われる側の人間だと勝手に思っていた。

 奢りだと言われたし、気を紛らわせる為にもとことん食べてやろう。

 私の頼んだサーモンクリームパスタ(大盛り)も運ばれてきた。バケットも追加だ。


「やっぱ極道から飯たかれるだけたかるって度胸凄いわ」

「むしろここで遠慮しては失礼なのでは?」

「せやけども」


 ここはどちらかというと大衆向けの料理店。痛む財布ではないだろうに何を言っているのか。

 それにランさんだって容赦なくチーズリゾットのおかわりをしている。


「リーテスさん、このチーズリゾット作れる?」

「ええ。そうですね、アレンジして海鮮チーズリゾットなんて如何でしょう」

「私も食べたいな」

「もちろんです。沢山作りますね」


 何と無しにランさんのリゾットを眺めていると気付かれた。小皿に分けてもらい、一口食べさせてもらったのだが近い味は再現出来そうだ。

 最近は女将さんの料理ばっかりで自炊を全くしていなかった。ちょっと余裕が出来たし空きが出来たら簡易キッチン付きの部屋に移るのもいいかもしれない。


「自分ら仲ええやん。もう友達でええんちゃう」

「そういうものですかね」

「そういうもんやって」


 ランさんに食事を披露するのはクランでもやっていたから仲が良いと言われてもあまり実感がわかない。それにエプルさんのような子どもに食事を作らない理由はないし。

 二人も黙り込んでしまったから、私同様あまり実感が無いのかもしれない。


「なぁなぁ、リーテスさんって強いやん」

「そうでもないですよ」

「リーテスさんは強い」


 目前に居ても完全に気配を消して認識外の存在になる人間と、身ひとつで高位魔獣の相手を出来るような人間に言われてもお世辞にしか聞こえない。

 けれどもあまり謙遜し続けてはそれこそ嫌味になる。賛辞はほどほどに受け取るのが吉。


「どこで修業してたん?」

「どこって、冒険者時代に死に物狂いで依頼をこなしてただけですよ」


 死ぬ気でやれ、なんて言うけどとにかく冒険者は気を抜いたら死ぬから。

 新人とちょっと仕事に慣れて来た程度の冒険者の怪我率や死亡率はいつだって高い。


「冒険者やってたん!? はは、王手クランのハウスメイドに冒険者って属性多すぎやて」

「ハウスメイドにしても、効率的に仕事しないと時間が足りませんでしたから。人間追い込まれるとそれ相応の(すべ)を会得しますよ」


 言ってなかったっけ。そもそも言ってなくても調べられていると思ったんだけど。

 あれだけ呪具やら送り付けられる人なんだから家に招く人間の身辺調査ぐらいやっていると思ったのに。


 ……あ。

 たぶん、ツェントルムから離れた小さな街で冒険者をしていたから足がつかなかったんだろう。


 冒険者をやる上でのあまり使わない方がいい豆知識。

 拠点となる街を変える冒険者はあまり居ないので、何かやらかしても拠点さえ変えてしまえばいい。そうしたら街のギルドやクランから干されてもなんとかなったりする。

 なんなら名前も変えてしまえば執拗に調べないとまず特定できないだろう。

 私の場合は普通にツェントルム(都会)に来ただけで何もやらかしてないけどね!


「冒険者時代の話気になるわぁ」

「面白い話はありませんよ。常に金欠で依頼の為に走り回ってたぐらいです」

「おれのせいで……」


 暗夜行(ナイトウォーク)の場合は遠征も多くしている為にちょっと顔が広すぎてちょっとツェントルムから離れる程度じゃどうにもならなそうだったのだ。

 旅費を全て使うような勢いで本気出して遠くの街を探すぐらいしないと。伊達にメンバーが全員ゴールド以上の階級持ちクランじゃない。


「え、なになに」

「おれの治療費でリーテスさんが苦しい時に迷惑をかけた」

「全く違いますからね」


 ちょっとシュン……としているランさんに全く関係ないとフォローを入れておく。3年と少しの付き合いになってようやく細かな表情の変化がわかるようになってきたな。

 暗夜行(ナイトウォーク)で再会した時は驚いた。まさか私を覚えていたなんて。

 大怪我を負った駆け出し冒険者だったランさんの治療費を出したのは目の前で死なれたら後味が悪いなんて理由だった。


「やっぱり冒険者は実力が無いと儲からない仕事ですから」


 どうせ冒険者を辞めようと思っていた時だった。だから、ちょうどよかったのだ。

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