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19 危険なお仕事

 ラクリマ・ファミリーって反社の代表格みたいなきな臭いギャングだったはず。少なくとも良い噂は聞かない。ギャングに善いも悪いもあるのかと言われると黙るしかないけど。

 非合法な薬をはじめとして、限りなく黒に近いマーケットに手を出しているだとか。


 ちなみに南部大陸において人身売買は大罪である。

 大昔に他大陸の珍しい人種を売りさばいた際に大陸間戦争が起きたのだ。それ以来厳しく取り締まられている。


 あくまでも人身売買が御法度なだけで借金のカタに、といった方法はあるのだが。

 あと他に聞いたことのある噂で言うとラクリマファミリーって確か闇金のバックにいるって話だったような。借金が返せねぇのなら身体で払え的な。

 身体で払え、とは。娼館ならまだマシなほうでカニ漁船やらに乗せられると命の保証がいよいよなくなるので注意だ。

 賭博で借金まみれになって怖いお兄さんたちに何処ぞへ連れていかれた冒険者は何人か見たことがある。


「姉チャンらやったら出来るって」

「出来る出来ない以前にそんな仕事はしませんって」


 反社同士の抗争に巻き込まれるなど駄目だ。ランさんの実力は折り紙付き。その場は切り抜けられるだろう。でもその後は?

 何をされるかわかったものではない。


 面倒になるなんてわかりきっている。後を考えると断った方が絶対にいい。

 ギャーギャーと言い合っているとリーチさんが口を開いた。


 「自分ら何でも掃除する掃除屋とちゃうんか?」


 リーチさんが訝しんでいる。そんな不思議そうな顔をされてもこっちが困る。もしかして、彼もリスイさんと同じように勘違いをしたのだろうか。

 ギャングの価値観で言う“何でも”と相容れそうにない。何でも、とはゴミとか汚れを落とす感じの掃除であって人間の掃除ではない。


「リスイから腕利きの傭兵が()るって話を聞いとったんやけどな」

「はい?」


 傭兵? 何を言ってくれたんだとリスイさんに目で問いかける。その瞬間、ばつが悪そうに微妙な笑顔を向けて来た。胡散臭さに磨きがかかってるな。

 誤った知識が吹き込まれている気がした。笑うよりも、いいから説明をして欲しい。


「あーーーー、霹靂クンがばっさばっさラクリマの奴ら倒しとるのがおもろくてなぁ。あと姉チャンもゴクタの一刀受け切ったし」

「と、いいますと」

「すんごい腕が立つ掃除屋雇ったって話しただけで」


 あの敵対勢力こそがラクリマ・ファミリーだったのか。ボスは呪具の餌食になったはずだから、掃除を頼みたいというのは残党狩りといったところか。

 弔い合戦としてあんなに大勢が押しかけてきたのだ。正規の構成員ではない私たち相手だと、部外者がしゃしゃり出やがってといった感じにお礼参りが怖い。

 徹底的に潰せばなんとかなるのだろうが、ランさんと私でやるには無茶が過ぎる。殲滅は人海戦術でしっかりとやらないといけないんだからまず無理。


「その言い方は誤解を招くと思います」


 だいたいリスイさんのせいだとはわかった。そっとゴクタさんを伺うと額を抑えてため息をついている。

 自然とリーチさんの視線までもがリスイさんへと向かった。


「ワシ悪ないし! その日あったおもろい話しただけやし! ようある家族団欒やん! そんで興味もったんジイさんやん」


 こいつ、開き直りやがった。

 そら家の掃除よりも人間をなぎ倒した話をすると傭兵だと思われるものだろう。

 もう帰ろうか、とランさんに顔を向けると頷かれた。ランさんが頷く時は大概了承の意なので何も言っていないが伝わっただろう。


「帰りましょう」


 隅っこで尻尾を逆立てているエプルさんの手を引く。

 そういえば、この子はリーチさんがドアを蹴り上げる前に何かに気が付いていたな。


 獣人は聴力といった感覚が優れているともいうし誰よりも早く察知したのかもしれない。荒事は早々に起こらないと思うけど、簡単な逃走方法ぐらいは教えておこう。

 なにも相手を倒さなくても、逃げ切れば己の命ぐらいは繋げる。


「本日はお招きいただき誠にありがとうございました」


 東方の挨拶は膝折礼(カーテシー)よりもお辞儀が好まれるらしい。

 ランさんに教えてもらったとおり、45度ほど頭を下げる。謝意によって角度の深さを変えるそうだが今日の所はこれぐらいでいいはずだ。

 さっさとお暇させてもらおう。そんな私たちを引き留めたのはリーチさんだった。


「まぁ待て。ほら、ラクリマの殲滅はナシやナシ」

「はぁ」

「せやからウチの屋敷掃除頼むわ。前金そのまま渡すから。うちの孫がすまんな」


 うーん、それなら悪い話ではないのかも?

 ギャングの本家だけあって若いモンにやらせていたとの話だが、やはり細かな所に手が届かないのだという。若いモンとはリスイさん宅に案内してくれたチンピラお兄さんたちか。

 掃除や料理もギャング見習いの仕事としてこなしているらしい。


 多少の勘違いがあったもののそれなら普通に掃除屋としての仕事の範囲内だろう。


「畏まりました。リテイナーズ・サービス、誠心誠意お仕えさせていただきます」


 ドアへ向かっていた身体を反転。リーチさんに心を込めてお辞儀をする。


「せや、姉チャン料理も作れる?」

「賄い程度なら」

「じゃあ仕事の期間は料理も頼むわ。ワシとジイさんの分だけでええから」


 外部の人間に料理を任せてもいいのだろうか。

 とりあえず明日から一週間程度のお仕事は頂けた。敵対勢力の掃除だとかいう意味の分からない職務を断っているだけで、普通の掃除ならば断わる理由が無いのだ。

このギャングたちはファンタジー・異世界・ヤクザです。

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