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18 八つ橋

 今更ながら登龍一家について説明をしておこう。簡単に言ってしまうと東方系反社会組織――即ちギャングだ。

 東方系のその筋の方たちは自らを“極道”なんて称しているらしい。道を極めたモノだとか由来はかっこいいと思う。


 それで登龍一家であるが、60年前に若かりし組長(ボス)が南部大陸に渡り、登龍一家を興した。

 組長(ボス)の名はリーチ・リュート。南部大陸に渡った際、東方風の名前から改名したらしい。リスイさんはその孫で、次期3代目組長(ボス)の予定。

 それ以上を調べると深淵に行きつきそうなのでとりあえずはこれだけ。あまり深く関わらない程度にお掃除をして帰ればいいのだ。


 で、だ。今要るのはロイテ地区。ツェントルムを代表する高級住宅街である。

 領地を持たない貴族や豪商などが住んでいるエリア。ギャングでもこんな所の町内会に入れるんだと驚く。でもお金はありそうだし世の中金なのだ。

 

「おっきいし綺麗ね!」

「ええ、様々な地域の人が住んでいるので建築様式に違いはありますが景観を損なわないように作られていますね」


 留守番させるのもなとエプルさんも連れて来た。いざという時近くに居た方が手が届く。

 あと子どもは行動力があるので目を離してはいけないのだ。


「副マスターの家もこの地域にあった」

「ホームパーティを開いていましたもんね」


 私は誘われてないけど。下準備と後片付けだけやりに行ったのを覚えている。

 クランというのは上にいくほど役職手当があったりするもので、暗夜行(ナイトウォーク)の副マスターともなればロイテ地区に家を持てるだろう。

 むしろ拠点を定めておきながら冒険にあけくれ帰ってこないマスターが異常なのだ。

 

「住所はこちらで間違いありませんね」


 立派な門構えの御屋敷である。そして表札には立派な滝に巻き付くような龍の紋。登龍一家本家で間違いないだろう。

 木造の御屋敷。東方風ではあるのだけど、ランさん曰くこの建築様式は東方の島国風らしい。確かに止まり木のような原色を多用した派手さは無い気がする。

 南部大陸は様々な国や文化の人間が集まる場所なのでこういった建物も珍しくない。東方の更にどこそこの、といったものは全くわからないのだが。


 時間はぴったり午前8時。

 覚悟を決めてチャイムを押す。


「貴方の手足となって働く召使、リテイナーズ・サービスです」


 やっぱり決めセリフはしておかないと。同じ言葉でも繰り返していれば自然の人間の脳に焼き付く。

 競合他社に取られるのもなんとなく癪というもの。反社相手の商売は遠慮したいとはいえ、こっちだって稼がないといけないのだ。


「よう来たなぁ」


 門が開く。出迎えてくれたのはリスイさんとゴクタさんだ。

 リスイさん宅に居た時は着物がちぐはぐに思えたが、この屋敷に居るとしっくりくる。

 若頭とその世話係。なんとも豪華な案内役だ。門を超えたら更に玄関までが遠い。掃き掃除をしている方々が通るたびにびしっとお辞儀をしてくる。


「なんかすごく頭を下げられてるよ」

「みんなええ子やろ。って、キミもしかしてあんときワシ刺そうとした子?」

「うん。ごめんなさい」

「まぁ姉チャンとこの子になったんやったら今回は許したるわ」


 それでいいのか若頭。そしてやっぱりちょっと図太いなエプルさん。

 成長するまでにやっぱり倫理観を今一度しっかり教えておこう。特に冒険者は倫理観が狂いがちなので、ご両親の影響も含めて気を付けなければ。


「私、リー姉のとこの子だって」

「はい」


 くふくふと笑顔いっぱいのエプルさん。やっぱり可愛いからこのままでもいいかもしれない。


「おれもリーテスさんとこの子」

「はい」


 冒険者としてのランクも実力だってランさんの方が高いが、それでも私から見ると世間擦れしていない子だ。

 ランさんに関しては成人済みで恩人ではあるが――うちの子たち、もしかしなくてもめちゃくちゃ可愛いな。


「ちょっとワシ置いてけぼりにせんといてや」

「お客様は部外者」

「霹靂クンそういうんアカンて。ほら、部屋片づけてくれた仲やん」


 と茶番をしながら廊下を進み、辿り着いたのは応接間。

 こういうのって上座とか下座とかあるんだよね。「まぁ座ってや」とにこやかなリスイさん。ちょっと悩むな。

 席順の覚え方は単純に言うとドアから不届き者が入ってきた際、真っ先に襲われる位置が下座である。そこの所の対処をしてもらうならランさんに任せたいところだが。


「失礼します。ランさんとエプルさんはこちらに」


 エプルさんを一番奥、そして私が下座へと座る。登龍一家の元締めの家まで押しかけてくる奴なんているわけない。

 真っ先に襲われる位置とはいったもののそれ以上に下座は偉い人たちをもてなす為の席なのだ。ランさんを信用していないわけではないがそこを加味すれば不安が残る。

 この間1秒以下の時間で考えていた。


「ウチのジイさん、もう少ししたら来るから」


 どかりとソファへリスイさんが座る。ゴクタさんが茶菓子を持ってきてくれたのでありがたく頂こう。

 だってエプルさんが目をキラキラとさせているし。ランさんだっていつもより瞳が大きくなっている。“食べる”ことが大好きなのはいいことだ。


「これめっちゃ美味いやろ。大通りの菓子屋でな、南部大陸出店1号店やねん」

「はぁ。八つ橋というのですね」

 

 茶菓子をいくつか食べていると、エプルさんの耳がピンっと立った。

 そして程なくやってくる()


 蹴り開けられるドア。相手の得物は木刀。

 咄嗟にランさんがテーブルの御盆を掴み取り、応戦する。中央に座っていたランさんだが、軽々と私を飛び越える。

 木刀を受け止めた後、ランさんは追撃をかけようとして


「霹靂クンちょい待って。せやからジイさんも試さんでもええいうたやろ」

「ほんまやったわ。すまんすまん。でもお前、気に入った相手に甘なるし」


 リスイさんと木刀の男が和やかに談笑を始めた。

 登龍一家の元締めの家に不届き者が出た。ギャングなんて全員そうだろと言われてしまえばそうだが。

 それに下座の意味なんて無かった。ランさんの対応が早すぎたのだ。 うん? 今、ジイさんって言った?


「あなたは――」

「驚いたか? わしが登龍一家組長のリーチ・リュートや」


 ほんとうに、何?

 70歳を超えているはずだが、二回り程度は若く見える御老人。いたずらっぽく笑っている。

 とりあえず私たちも自己紹介を済ませて。エプルさんも練習した甲斐あってすらすらと言えて偉い。


「いやぁリスイから腕利きの掃除屋が居るって話聞いてな。依頼しよ思たんや」

「今のはいったい」

「せやったら実力試さなアカンやろ。合格や!」


 合格と言われましても。

 組長自ら仕掛けてくるなんて意味がわからない。それにもしもランさんが怪我のひとつでもさせていたらお礼参りのひとつやふたつ、されていたかもしれない。


「すごいなぁ腕めっちゃ痺れたわ。あとで医者に診てもらわな」


 駄目っぽい。リーチさんの腕が真っ赤に腫れていた。

 木刀VS御盆だったのに。ランさんは警戒を解いていないようだがケロっとしている。御盆や自身に強化魔法をかけたのだろう。

 これ何かとんでもないのをふっかけられたりしないかな。でも仕掛けてきたのあっちだしな。胃がキリキリと痛んできた。


「おし、自分らの実力見込んで頼むわ。ちょっと敵対してるラクリマ・ファミリー掃除してきてや」

「前金はお返しいたしますのでお断りします。業務対象外です」

「うちのジイさんが身を挺して頼んどるんやで。姉チャンもっと八つ橋に包んだ言い方してや」


 うるさいな。明らかに仕事内容が違うだろう。

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