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01 ハウスメイド

新連載始めました。


 冒険者と呼ばれる職業がある。冒険者とは、要人の護衛や魔物の討伐。そして植物の採取など、ギルドを介した依頼をこなす仕事。

 要は何でもやりますよ屋さんである。もっとも、彼らに言わせれば浪漫を追い求めてどこまでも冒険をするから冒険者なのだけれど。


 そして私、リーテス・イーナスはハウスメイドである。

 ハウスメイドといっても貴族の偉い人に仕えているわけではなく。私は冒険者クラン【暗夜行(ナイトウォーク)】の拠点ハウスの管理を任されていた。

 拠点ハウスとは、冒険者クランのメンバーが集まる集会所とでもいおうか。クラン内でパーティを組むにしてもギルドで一々集まっていては迷惑にもなる。だから、余裕があるチームは自分たちの拠点を持つのだ。


 そんな拠点(ハウス)の管理人。

 この職につくまでの話をさせてもらおう。私は元々冒険者だった。

 15歳の時に着の身着のままといった状態で衝動のまま田舎から飛び出し、3年は荷物運びや手伝いといった下積みをして。後は2年と少し冒険者をしていた。

 冒険者を辞めた理由はずばり金欠。悲しいかな予想外の出費が重なり、次の依頼をこなす備品を買うための金すらなくなってしまった。

 冒険者とは金銭を得るために金銭を使う厳しい仕事なのである。

 

 そんな時に見つけた住み込み求人。

 内容は掃除専門のハウスメイド募集である。そこそこの規模のクランであるが、金がないだけで体力に自信があった私は飛びついた。

 そしたらまぁ。最初は掃除だけだったのに仕事はどんどん増えていったのである。


 私の実家は商家だ。

 だから数字や書類仕事が並みの人間よりは出来た。実家では後継ぎも既にいたし、必要ないとされた私の勉学が役立ったのだ。

 それからは掃除に加えて備品の管理や買い出し、時間があれば食事作りまで行っていた。


 雑務を片付けるのも掃除の一環と言われてしまっては仕方がない。食事に関しては、私が作った私の夕食を物欲しげに見つめるメンバーに絆されてしまったのだ。

 最初はその腹ペコ冒険者に分けていたのに、そのうち他のメンバーも集まってきた。メイドだから飯の用意もするだろ! と謎理論が広まっていたのである。

 ニコニコと感謝されては仕方がない。自分の食事に加え多く作るようになってしまった。

 後にあれ、ちょっと仕事多すぎない? と疑問に思う頃には全ての仕事を卒なくこなせるようになっていたのだ。


「リテイナさん、これ今日の飲み会の領収書!」

「はい、確かに承りました」


 5年ほど働いているが、私の名前をフルネームで知っている人はどれほどいるだろうか。

 勤務初日からクランマスターに「略してリテイナさんだな」と言われて以来、幹部から末端に至るまで名前を略されてしまっている。

 一拍置いてからリテイナー(召使い)かと意味が分かったときにはちょっとした感動を覚えたものだ。マスターに悪意が無いのはわかっていたのでまぁいいかと訂正もしていない。


 けれどもハウスメイドとしての仕事には誇りさえ持ち始めていた。

 確かに40人を超える冒険者の防具や資材の管理は大変の一言では済まされない。ポケットからぐちゃぐちゃになった領収書が出てきた時には怒りが溢れ出る。

 最近は新人にちょうどいい依頼の割り振りまで仕事に入ってきている。

 それでも、みんながフリーの日には慰労会を開いたりちょっとした小旅行に出掛けたりと充実していた。私は留守番だったけども。

 断じて誘われていないとかではない。仕事に追われ過ぎていただけなので。土産だってもらっていたのだから文句などない。

 

 話が逸れた。我がクランの話をしよう。

 私の働き先、“暗夜行(ナイトウォーク)”は発足して6年ほどのクランである。

 暗夜行(ナイトウォーク)は拠点としているツェントルムの街一番、なんなら国もで有数の冒険者クランだ。

 クランマスターである“モルガナ・モルデン”はドラゴンや怪物などというトンデモ存在をいくつも討伐した実力者。副マスターだって元は貴族出身らしく、社交界へのコネもあり顔が広い。

 そんな二人の元に集うは世界各地からの実力者だ。メンバーひとりひとりに得意分野があり、さまざまな依頼にパーティを組んであたっている。

 そのおかげで依頼が失敗したなんて話も聞かない。それに冒険者は身体を張る仕事、悲しいことに死人だって出てしまうものだが暗夜行(ナイトウォーク)では死人が出たことなどない。


 そんな誉あるクランに私が就職できたのは運が良かったからに他ならない。

 発足して1年後、驚異のスピードで出世街道を登った暗夜行(ナイトウォーク)はクランハウスを購入。そしてその管理人を探し始めた、という訳だ。


 叶うならば、もう少しだけハウスメイドを増やして欲しいとは思うものの「リテイナ独りでうまく回っているだろう」と副マスターの一言で片づけられてしまった。

 その後にとてつもなく褒められ、まんざらでもなくなってしまった。うまく回しているだけだと言えなかった自分が憎い。

 それでもなんとかやっていけていたのだ。

 

 期待の大型新人が加入するまでは。

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