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オーガの像  作者: 唖鳴蝉
3/3

3.アランカの遺産

 ジュディスお嬢様に許可を貰って、その「ハリー」って名前の(オーガ)を手にとってみたんだが……確かに妙に不安定だ。重心の位置が高過ぎんのか?

 念のために他の六匹も触らせてもらったんだが……


「こりゃ、重さはどれもこれも同じくれぇなんで?」

「えぇ。ほとんど重さ同じですね」

「で、どれもこれも素材は銅――ってわけで?」

「えぇ。人を頼んで【鑑定】してもらいました」


 【鑑定】ねぇ……


 七体の像はどれもこれも同じくらいの大きさで、材質も同じ、重さも同じだってぇ話だ。

 なのにそのうちの一体だけが、重心の位置がおかしいときてやがる。


(……単純に考えたら、内部に空洞か何かがあるんだろうが……)


 (かさ)が同じで内部に空洞があるって事ぁ、実際の量が他の六体よりも小さいって事……言い換えると、素材の比重が違うって事だ。なのに、【鑑定】じゃ同じ「銅」になってる……


 矛盾した内容に頭を抱えてたんだが、ふと「ハリー」の(かね)(ぶくろ)(きず)が入ってるのに気が付いた。けど、この(きず)は……


「えぇ。お祖父(じい)様がお倒れになった時、床に落ちてできた(きず)です」

「ですがこりゃ、(きず)ってぇより鍍金(めっき)が剥げたみてぇに見えますぜ?」

「えぇ。実際そのとおりです」

「……像は七体とも(どう)無垢(むく)だって伺ったんですがね?」

「嘘ではありませんよ? (どう)鍍金(めっき)の下地も銅なのです」

「銅に銅を鍍金(めっき)したってんで?」

「あまり無い事だそうですわね。【鑑定】した方も驚いておいででした」


 珍しいってぇか……普通はしねぇぜ? んな事ぁ。


 愈々(いよいよ)ハリー(こいつ)」が怪しいって事になって、俺ぁ「ハリー」の像を(つぶさ)に調べたね。【鑑定】のスキルは持ってねぇが、俺だって斥候職の(はし)くれだ。ブツの調べ方のコツぐれぇは教わってるし、(こう)事家(ずか)のご隠居の依頼を受ける事もあるんで、美術品を調べた経験もそれなりにある。

 だから――それに気が付いた。


(……他の六体に似せて造ってあるが……こいつだけ作り手が違ってんな)


 七体組の人形の一つを別のものに差し替えたのか、最初から六対一組だったのに一体を後から加えたのか……そこまでは判らねぇが、この「ハリー」が最初からのメンバーじゃなかったなぁ間違い無ぇ。台座の細工なんかにも、()く見りゃ僅かな違いがあるしな。

 ……こりゃひょっとして、あの「本」もまやかしもんなのかもしんねぇな。


 何でそんな面倒な真似をしたのかも気になるが、


(……空洞部に何かを隠してあんのかもしれねぇが……それよりか、重さと比重を誤魔化すために空洞にした――っていう方がピンとくんな)


 だとすると最初に考えるべきは、「ハリー」の本当の素材は何なのかって事だろう。


(……銅より重たくて、なのに【鑑定】では「銅」と表示される金属かよ……心当たりが無ぇわけでもねぇんだが……)


「あの……何か?」


 おっといけねぇ。頼まれたからには代金分の仕事を(こな)さなくちゃなんねぇが……俺の想像が当たってたら、こりゃ下手に深入りすんなぁ(まず)いよなぁ……


「俺ぁ専門家じゃねぇんで確かな事ぁ申し上げられませんがね、この『ハリー』ってオーガを、もう一度調べてみるのをお勧めしますよ。あぁ、【鑑定】じゃなくて分析とか、炎色反応とかでね」

「はぁ……炎色反応……ですか……」


 「賢者(じばくれい)」のやつに聞いた話が確かなら、アレは【鑑定】は誤魔化せても、炎色反応とかまでは誤魔化せなかった筈だかんな。アレは硬ぇって話だから、仮令(たとえ)それが欠片(かけら)ほどの大きさでも削り取るなぁ骨だろうが、鍍金(めっき)の部分を剥がしてやるくれぇはできる筈だ。その後は()()しになった下地に火を当ててやりゃ、その炎の色で判るだろ。


「その時にですがね、口の堅い信頼の置ける相手に頼みなすった方が良いと思いやすぜ。あと、売っ払う時にゃ七つ一揃いで、ついでにあの本も付けてお売りになりゃ、色々と面倒を避けられるんじゃねぇかとも……ま、こいつぁ要らざる老婆心ってやつですがね」

「はぁ……」


 しがねぇ死霊術師(ネクロマンサー)にできるなぁ、精々がここまでだな。



・・・・・・・・・・



 以前「賢者」のシグのやつに聞いたんだが――六千年ほど前に罪とともに滅んだって伝えられてるアランカ文明ってなぁ大したもんでよ。今じゃ考えられねぇような高度な技術を持ってたらしい。その文明が滅んだ時に、加工法が失われた素材なんかも多いんだとよ。


 ――そんな素材の一つに、インジームIngeamって呼ばれる金属……賢者(じばくれい)のやつの言葉を借りりゃ、「稀少金属(レアメタル)」ってのがあるそうだ。


 アダマンタイトにちょい劣るぐれぇの硬さなんで加工も難しいそうだが……この金属の何より奇妙な点ってなぁ――他の金属と一緒にしておくと、その金属の〝ふりをして〟【鑑定】を欺くってところにあんのよ。

 そんな性質を持ってるせいで、抽出や精錬が極めて困難って代物でな。古代アランカ文明だけが、その精錬・加工に成功したんだとよ。


 最近どこぞの貴族とやらが、アランカの遺品ってやつをしゃかりきになって集めてるそうだから、下手を打たなきゃそこそこの金は引き出せるだろ。七体一組でそれらしい話と一緒に売っ払っちまえば、あまり人目も引かずに済むだろうしな。


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[気になる点] ありゃ? 作者さんには珍しくエタですか……
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