1.前口上、或いは愚痴
お久しぶりの死霊術師です。今回は三回の予定です。
死霊術師って稼業のどこが面倒なのか、知ってるか?
世間様があまり死霊術師の事をご存じ無ぇってとこなのよ。
そりゃまぁ、世間様の言い分も解らねぇでもねぇぜ?
死霊術師なんてもんは、長ぇ人生の間にだって数えるほどしか出会さねぇだろうしよ。詳しい事を知らなくたって、そりゃ無理もねぇ話だ。
……けどよ、いざご用命あそばそうかって時ぐれぇ、予め死霊術師の事を調べておくぐれぇの事ぁしてほしい――ってなぁ……こりゃ俺の言い分が贅沢なのか?
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「……つまり何ですかい? ご先代がお亡くなりあそばして、浄化も弔いも埋葬も終わって半年がとこも経とうかって段になって、訊きたい事ができたからご先代を呼び出せ――と?」
「はぁ……難しいでしょうか?」
……今思い返しても、あん時の俺を褒めてやりてぇぜ。トンチキな依頼人の頭を叩く事も無しに、キチンとO・HA・NA・SHIできたんだからよ。
ま、ご当主はお貴族様のくせに、俺みてぇなチンピラに対しても丁寧な物腰で応対してくれたってのも大きいけどな。
まず――浄化も弔いも埋葬も終わって半年も経った後で、屍体も何も無しに降霊を行なうなんて真似は、高位の死霊術師でもなきゃ無理だって事を、とぉ~っくりとご説明申し上げた後で、そんな事になった事情ってやつをお訊ねしたわけよ。死霊術師ギルドなり術師学校なりに俺から話を通すにしても、詳しい経緯ってもんが判ってなきゃ、説明のしようが無ぇからな。
で、ご当主が訥々と話してくれたところによると……先代の没後、財産整理の段になって、当主だけに代々伝えられる秘宝がどうとかって与太噺が出て来たんだが、肝心のご先代はご当主に何も伝えずに頓死した――ってんだな。
唯一手懸かりになりそうなのが、〝家が窮地に陥った時にはオーガが救ってくれる〟とかって言い伝えなんだと。で、件のご先代が死ぬ間際に握り締めてらしたのが、そのオーガの像だとかで、どう考えてもこれが怪しいって事になった。
けど、オーガの像ってなぁ七つあるらしくって、そのどれにも何の文言も彫られてなきゃ何か隠されてる風でもねぇ。
いよいよどうにもならねぇってんで、最後の手段とばかりに死霊術師に頼る事になった……ってのがこの件の顛末らしいんだな。
「故人の遺志を解き明かす事にかけては随一だと、ギルドの方がおっしゃっておいででしたので……」
畜生め……話を訊いてみりゃ、ご当主はちゃんと死霊術師ギルドに話を持ち込んだってぇじゃねぇか。
そこで高位の死霊術師に依頼した時の料金を聞かされて腰が引けたところへ、ギルドのクソ職員が俺の事を囁いたんだと。で、それなりの値段でそれなりの効果が見込めそうだって事で、俺にお鉢が廻って来たって寸法らしいわ。……どこのどいつが余計な事を入れ知恵しやがったのか、後できっちりと調べ上げてやらぁ。
「……て事ぁ何ですかぃ? 俺に期待されてんなぁ死霊術じゃなくって、謎解きの方だってわけで?」
「と、申しますか……我々としては言い伝えの内容が明らかになるのなら、死霊術でも謎解きでも構わないわけでして」
死霊術師としちゃあ複雑だが、ま、気楽っちゃ気楽な話になったわな。
「んじゃまぁ話の手始めってやつで、その〝オーガの像〟ってやつについて、ざっとでいいんで教えてもらえませんかね」
何でもご当主の話に拠ると、その「オーガの像」ってなぁ七体一組になってるんだそうだ。ごく普通の銅でできた、ごく普通の鋳造品で、最近じゃこれもごく普通になった〝古代アランカ文明の遺産〟って曰く付きの品なんだとよ。
で――ただ一つ違っていたのは……