15.5.霊体と人間、そして幽体離脱 後編
「ははは、だからなんだ。俺は、あいつの輝きを解説しただけだ。そんなことは知らん。そんなことよりな、もっと聞けよ。
姉妹の事件あっただろ? 香菜の恨みを聞いててな、協力していくうちにわかったんだが……あいつ、自分で殺しておいて、現実逃避のために姉の人格まで作りやがった。その時に、閃いたんだよ。
他人格に魂があるのかってな。だから、抜き取ってみた。そしたら、魂がそこにしっかりあったんだ。すげぇ発見だろ? それを大事に今はずっと抱えてる」
(じゃあ、やっぱり……)
「そう! 察しがいいな! 成仏した魂をあの世から呼び出して、そいつの魂を取れるのかってな。だってそうだろ? そんな魂、特別なわけが無い!
まぁ、死んだのが赤ん坊ってのは物足りなかったが……ほら、一度死後の世界を見てるなら、天国と地獄の存在がわかるだろ? 話せないからな……
まぁ、魂は成長を遂げて、言語を話せるようになるのかってのも気になって、考えれば考えるほど、それが楽しくて寝れなかったよ。
塩染と常和だっけ? あいつらの話を聞いた時は、これだって思ったよ。この計画は完璧だって。加えて、彷徨った魂を、まだ完全に骸骨になってない死体に戻すとどうなるか……それは、ゾンビになった。
非常に楽しかった。お前らは思ったように動いてくれたし、最高に気持ちよかったしな」
こんな時、浅霧はなんて答えただろうか。
怒りたい気持ちは山々だったが、そういうリアクションをしても、相手は喜ぶだけ。それが、悔しくてたまらない。
「だが、残念なことに、成仏した人間の魂は蘇らなくてな……仕方がないから、そこにいた村長を変わりに憑依させてやった」
(仕方がないってなんだ? さっきから、人をなんだと思って……)
「単なるゴミにしか思ってないって! 何度説明したらわかる? さっきまで褒めたと思っていたら、状況が変わればころっと貶し始める。なにが偉大なのか、なにが大事なのか、死ななきゃわかんねぇんだよ!」
(……可愛そうなやつだな)
「知るか。ただまぁ……後でヒヤッとしたよなぁ……ほら、霊体化すると、他人の心の声は聞こえるだろ? だからさ、俺の計画が読まれてんじゃないかと思ったんだけどさ、それは悟られなかったんだよ。
なにもかも最高だろ。俺は、相手のことが何でもわかるが、相手は俺のことをなにもわからない。この上なく最高だな……」
(次は、開き直って自分に酔ってるのか?)
「そんなに煽ってて後悔するなよ?」
(こっちの台詞だ)
「威勢がいいな」
そこで、会話が終了してしまう。
それからしばらく無言が続く。腐りそうだった。臭いも感触も、なにも感じない。ただ、視覚と聴覚だけはそこにある。
しかし、不思議なものだ。どんなものに閉じ込められているのかは全くわからない。例えば、それが人形だとすれば、触覚や嗅覚、味覚が備わっていないのは当然なのに、視覚と聴覚だけははっきりしている。
耳がついていたとしても、それに器官はない。目も同じようなものだ。
もしかしたら、心の在り方というものなのかもしれない。″心の目で見よ″や″心で聞け″などという単語が存在しているが、ああいうものなのだろうか。
先程まで視界が暗かったのは、何故だろうか。考えていても仕方ないことなのだろうか。なにかの中に閉じ込められれば、こうして視界が開かれる。
「お前は不思議なやつだな」
(突然なんだ)
「他の人間と違って、悩みやストレスもないのか? こんな状況になっても、心の声が聞こえてこない。他人に興味関心もないのか?」
(さぁな)
「潜在的な不安や恐怖。そういった、直感だけで生きてるのか?」
(知るか……)
「これじゃあまるで、修行した僧侶か霊能者、信心深いやつみたいだな」
(霊能者? あっ……)
今ので悟られていないだろうか。この間にも、高郷を倒すために鮫島が動いてくれている場合、難易度が高かった御経を書き込む事ができる。
「あってなんだ? まさか……協力者がいるのか?」
(ちっ……)
「図星か。除霊なんてされたら嫌だなぁ……まだ生きたんだよな。生きて生きて……ゴミ人間共以上に、俺は生きなければ……ま、注意すれば良いことか」
(呆れたやつだな)
「あれからそれなりに時間経ってるな。あぁ……退屈だ。ヒントは出してんのによぉ……これじゃあ面白くねぇじゃねぇか」
(ヒント?)
「この場所。ちょっと考えればわかることだろうが……」
(来るな……来るな……)
「祈ったって変わらないぞ?」
(うるせぇ!)
「それしか言えないのか?」
(浅霧を傷つけたら承知しないからな……)
「どうしてやろうか? お前の隣で悲鳴でも聞かせればどうなる?」
(ぜってぇ殺す!)
「ありがとう!」
嘲笑う。コメディ番組で笑う勢いで、人を馬鹿にした。
この状態ではなにも出来ない。高郷を止めることは、祈ることしか出来なかった。




