14.脅迫
頭がはっきりしない、微睡の中、体を起こした。頭が冴えわたらない。隙間があるカーテンから漏れる陽光は、煌々(こうこう)としているものの、それによって勇気づけられるということもなかった。
零時を周って布団の中で寝転がっていたが、結局寝入ることが出来ず、何度もスマホの時間を確認してしまった。その時に、小萱からの連絡があったことに気が付き、浅霧から確認が取れたそう。
小萱は完全にそのことを信じたようで、心配したメッセージを送ったのだが、それに対する返事は来なかった。
何時に寝れたのか、わからない。あれから一度も目が覚めてないが、ぐっすり寝れたとは言えない。体中に鈍痛が響いている。
スタンドテーブルのスマホを見る。もう少しで十時になるかならないかの間。SMSの返事はきていないが、手の中でスマホが震える。高郷広明からの四件のメッセージが入っていた。どうやらスタンプのようだ。
ロックを解除して、メッセージを覗く。
――許さない。許さない。許さない。許さない。
今ので、一気に目が冴えた。鎌を持った可愛い死神のイラストだが、血を模した赤い文字でそれが書かれている。
(どこで気が付かれた!)
全く心当たりがない。しかし、その詮索よりも先に、浅霧の事が気になった。
″あの予言が実現されてしまう″
結界も意味がなかった。
ロードで急いで連絡を掛ける。スマホの向こう側からは、保留音がずっと鳴り響いている。思わず、電話の主を確認してしまった。相手は、浅霧になっている。もう一度、耳にあてた。
未だに保留音が鳴っている。切るボタンをスライドして、かけ直す。全く応答がない。危険アラームが体中に轟く中、慌てて粗里に電話を掛けた。ツーコールで応答がある。
――粗里さん? 浅霧さんは?
――浅霧? どうしたの、急に。
――高郷から連絡が来て……早く駆けつけて!
――わかった。
電話を切り、歯磨きも細かい身支度もせず、そのまま洋服に着替えて、事務所に向かった。
・ ・ ・
電車で事務所へと向かい、鉄の階段を乱暴に掛けあがる。何度もピンポンした後、扉を拳でノックをした。
「浅霧さん? 浅霧さん!」
扉が開かれる。粗里が姿を現した。
「浅霧なら大丈夫だよ。入って」
中に入り、一切の配慮をせずに靴を脱ぎ、左に折れた通路を突き進んだ。突き当り、右手にある扉を開き、入って右手にあるソファーに座っている浅霧の元へ行った。
「おはよう。心配かけちゃったみたいだね。ごめんね。単純に寝てて……」
あまりの安堵感に、膝からがっくりと落ちた。
「よかった……」
「連絡したけど、見てないの?」
と、粗里が言う。両ポケットを弄ったが、スマホの存在がない。
「家に、忘れてきちゃった……」
粗里は微笑む。
「まぁ、とりあえず無事だってことだから、よかったよね」
「そうですね」
「見たよ、メッセージ」
「こっちにも来てたんですか?」
「うん」
右側の視界の端に写る浅霧に動きがあったので、そちらを向くと、ポケットからスマホを取り出して、画面をこちらに見せた。
帆野と同じように送られてきている。
「頼むから、ここにいてくれ。頼む」
「う、うん……わかったから、そんなに焦らないで?」
「俺一人でなんとかするから、な? 今日は、大人しくここにいてくれ」
「きゅ、急にそんなこ……」
目を見開いて、その先の言葉を止めてしまった。流石に察したのだろう。
「……わかった」
相手が見えない不安が、再び襲ってくる。死の予言もある。間違いない。鮫島に助けを求めたいが、やってもらいたいことが他にある。
ここはリスクを承知で突き進むしかないだろう。考えをまとめたい。
「外の空気、吸ってくる」
浅霧に向かって言った。
「うん……ありがとね」
「大丈夫」
浅霧の事務所を出てすぐのところで、深呼吸をした。ドアノブを覆うようにして、扉に背中を預ける。
人気の少ない雲が、意気揚々とする浮遊する。青天に恵まれながらも、不安と緊張が心を埋めていった。浅霧を助けるために言い出したものの、そもそも一人でなにが出来るというのだろうか。
半ばやけになってはみたが、漠然とした不安が急に侵食するばかりで、案の一つも思いつかない。次第に、酷く醜悪な、そんな嫌な予感が心を覆っていく。
そもそも、一人でどうにかするとは言ったが、その時は来るのだろうか。窮地ながらも、この先に一筋の希望すらないのではないのではないか。
眼前が一切の明かりを失う。その直感はまさしく、当たってしまった。なにもない。なにもわからない。どちらかをさらえるなら、それでよかったのかもしれない。
それが、浅霧でなくても。未来など、確定はしていない、常に状況変化があるものだということを、この身で実感してしまった。




